機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第十一話】フェイク
連邦軍は戦前から戦時中にかけて、小規模の衛星を各ラグランジュ点や月軌道上に配置して、拠点として運用していた。
だが、戦後連邦の管理体制が大幅に変わったことから、衛星としての拠点をルナツーとコンペイトウ(旧ソロモン)に集約して、小規模な衛星は基地としての機能を廃棄した。
先日シンジが立ち寄った衛星「アーク」もその一つだ。
アークのように衛星としての機能を一部残したままにしてあるのもあれば、完全に隕石に戻したものもある。
これらの衛星は基本的には連邦の目に届く位置に配置されているのだが、中にはアステロイドに埋もれているのも幾つか存在する。
今回のシンジの一件があり、それらの衛星の状態を今一度確認することになった。
もしかしたらジオン残党兵により摂取されているものあるかもしれない。
ルナツーの司令官ミック・クルーガは、コンペイトウとの連携によりそれらの衛星の調査を行った。
調査の結果、連邦が認知していない衛星は三つある事が分かった。
そのうちの一つ「アズウェル」が今回の調査対象となった。
月軌道上のL5方面にあり、ルナツーとコンペイトウのちょうど中間に位置する衛星で、三つのうちで最も大きい衛星となっている。
アステロイドに覆われたアズウェルは、ミノフスキー濃度が高いため、監視衛星からの画像も届かない。
しかも最近このエリアで所属不明機の目撃情報もあった。
非常に危険度が高い捜索になることが予想されるため、今回の捜索はアルバトロス隊だけでなく、コンペイトウの防衛部隊「第七機動連隊ベネディソン隊」との合同作戦になることが決まった。
旗艦ホーネットと随伴艦ユイリンでと共にアズウェルのある宙域へ向かう。
今回はミック・ジャック少尉がルナツーの護衛として残っている。
シンジは、ミカ・ヒューマン中尉を小隊長としてジョージとC小隊を組んでいる。
「こんなにミノフスキー粒子が濃いのは異常だな」
ホーネットのブリッジで艦長のシナプス大佐が両腕を組んで、アレン隊長に話しかけた。
「そうですねぇ。それにこの広さですから、ペネディソン隊と合わせて六小隊で編成を組んで捜索にあたります。」
「アズウェル自体はすぐに見つけることができるだろうが、そこからだな」
「はい。もし発見した場合はその場所をトレースできるようにポイントを置いてすぐ離脱します。帰還後再度突入という形が良いと思っています。作戦参謀もその意見みたいで、この後のブリーフィングで決定すると思われます。」
「私もその意見に賛成だ。詳しいことはブリーフィングでな。」
「は!自分は先に行っています。」
アレンは敬礼をしてホーネットのブリッジから出て行った。
時を同じくして、ジオン残党にも大きな動きがあった。
「カマネラのモビルスーツデッキで待機します。」
ブリーフィングが終了し、アレン隊長がそう言うとやシンジ他アルバトロス隊の全員がシナプス艦長に敬礼し、ブリーフィングルームを出て行った。
ホーネットのモビルスーツモビルデッキに艦間移動用のランチ(小型艇)が待機している。全員ランチに乗り、カマネラに戻った。
ランチの中でジョージが
「でもさぁ、自分ちの周りをミノフスキー粒子で固めるなんて、返って怪しまれるんじゃ無いですかねぇ」
と素朴な疑問を口にした。
「それは作戦参謀も言っていたんだ。もちろんこの濃いミノフスキー粒子だ、目視での調査しか出来ないから、我々アルバトロス隊が出向くんだ。さっきのブリーフィングでも言っていたが、我々の目的はあくまでも調査だ。要塞攻略ではない事を肝に銘じるんだ」
アレン隊長は改めてこの作戦の真意を説いた。
カマネラに到着したシンジ達を乗せたランチは、ハッチが開くとパイロット達はそのまま自機の方に流れて行った。
「頑張ろうな、シンジ!」
後ろからポンと肩に手を置いてジョージが声をかけた。
「ああ!」
とシンジは答えて、ストームブリンガーのコックピットに流れた。
アズウェル周辺のアステロイドを補足したホーネット艦隊はモビルスーツの出撃準備に入る。
シンジのストームブリンガーとジョージのジムコマンドーが射出される。
続いてミカ・ヒューマン中尉のジム・スナイパーⅡが射出された。
アステロイド内に入ると、そこはまさに霧の中だ。レーダーは全く反応しない。目視といっても光学ズームしてもぼやけてしまう。
シンジでもここまで酷いミノフスキー濃度は初めてだ。いつも以上に目と勘を頼りにしなければならない。
このアステロイド群の中でも一番大きい衛星がアズウェルのはずなのだが、目視では全く判断できない。
これは思った以上に骨が折れそうだ。GPSも効かないため、自分の位置情報を記録しながら進む。同じところに二度来ないようにするためだ。これは山道で迷子にならない手法と同じである。
とにかく大小さまざまな石ころを避けながら、予定のレンジ内を動き回っていると、ふとジョージの「自分たちの周りをミノフスキー粒子で囲むなんて…」という言葉を思い出す。
実はシンジもそれについては強く疑問に思っていた。ブリーフィングでも同じような話題になったが、大した問題にならなかった。
こんなに濃いミノフスキー粒子だと、外部から侵入者がいても分からない。実際我々がこの中で動き回っていても、察知できていない筈だ。
もしアズウェルで待ち構えていたとしても、アズウェルから我々を捕捉することは不可能だ。そうなるとアズウェルはジオンに摂取されてはいない。
シンジはミカの機体に接近し、接触回線を開いた。
「ミカ中尉、やはりこの状況でジオンがアズウェルで待ち構えている可能性は極めて低いです。この作戦、中止すべきだと思います。」
シンジは居ても立っても居られなかった。何も確証が無いけど確信がある。今自分たちは間違った方向に進んでいる。真実はここには無い、別の場所に真実が眠っている。その真実が間もなく目覚めようとしているとシンジの直感が告げている。
このシンジの直感が、未曽有の惨事を防ぐことになった。
【第十二話】コロニー強奪 へ続く
2021年11月13日12時配信予定