機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

一年戦争後の宇宙世紀の世界観を独自の目線で表現しています。

【第十六話】二人の未来

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機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

【第十六話】二人の未来

 

宇宙世紀0080年7月4日16時

 

第三次ブリティッシュ作戦と銘打ったこの作戦は、ペネディソン隊の最終防衛ライン突破をもって終結となった。

上陸部隊によってコロニーの軌道変更に成功、一度地球周回軌道に乗せ、重力カタパルトによりサイド5に戻す。

時を同じくして地球軌道艦隊の本体が到着し、ルナツーとコンペイトウや、月のファンブラウンからの増援も到着した。

旗艦の白旗によりあっけない幕切れとなった。

 カマネラのモビルスーツデッキでは、アルバトロス隊員全員、モニターで艦隊の様子を見ていた。

ジオンも抵抗せず指示に従っている様子がうかがえる。

すると、アレンの無線が鳴った。

「アレンだ」

「アレン大尉、ホーネットのシナプス大佐から通信です。そちらのモニターに回します」

ブリッジのオペレーターがそう言うと、モニターがホーネットのブリッジのキャプテンシートに座っているシナプスを映し出した。

全員敬礼する。

シナプスも敬礼で返したあと、

「ちょうど全員揃っているな。今回の作戦ご苦労だったな。間も無く本部から帰還の指示が来る。我々はルナツーからの増援と共にルナツーに帰港する事になるだろう。以後の処理は地球軌道艦隊がしてくれる。狭い館内ではあるが、ルナツーに帰港するまでやっぱり休んでくれ。以上だ」

今度はシナプスが敬礼したため、全員が敬礼で返した。

「聞いての通りだ。我々もこのまま解散だ。各自でゆっくりしてくれ」

アレンが最後に締めたため、シンジは一旦自室に戻ることにした。

「後で食堂行こうよ」

ジョージが誘ってきたため、

「分かった、後で行くよ」

手を上げて答えた。

 

ノーマルスーツから制服に着替えたシンジは、サラの顔を見たかったので医務室に行ったが、サラは食堂に行っているという事だったため、とりあえず一旦部屋に戻った。

思えば作戦が始まってからシャワーを浴びていなかった。

ルーティンとして、戦闘から帰った後は、まずシャワーを浴びる事を決めている。

ある意味サラがいなかったは良かったのかもしれない。

一旦パソコンを立ち上げて、メールの確認をしてから、今日の事件の報道が出ていないかチェックしてみたが、まだ出ていない様だ。

報道規制がかかっているのか、あるいは情報操作するための準備中なのか。

何件か大切そうなメールに目を通し終えると、すぐパソコンをシャットダウンした。

シャワーの前に水分補給と思い、キッチンの冷蔵庫から500mlの水のボトルを手に取った。

自室といっても無重量だ。蓋を開けると先端にストローが付いている。一気に半分くらい飲んだところで浴室に入った。

15分ほどでシャワーを浴び終える。

シャワーに行く前にボトルを浮かせておき、シャワーから戻ったあとにどれだけ移動しているのかを確認する、というよく分からなことをたまにしている。

動く量が少ないと何とも気持ちがいいが、ひどい時は壁まで達していて、その時はテンションも低くなる。

今日はほとんど動いていなかった。何とも良い気分で残りを飲み干した。

髪をドライヤーでセットし、髭も剃った。

制服を着て鏡の前でチェック、襟を正す。

準備万端だ。

シンジは食堂に向かった。

 

食堂ではいつもは見られない光景が広がっていた。

それはアルバトロス隊員が、シンジが来た事で全員揃っていること。そして、ジョージが食堂の外まで聞こえる声で饒舌に先ほどの戦闘の武勇伝を語っていた。普段ならアリスやアレンに制されるところだが、今日ばかりはお許しを得たのだろう。

お陰でシンジが食堂に入っても誰も気付かない。シンジはサラに気付いたが、サラは向かいに座っているレインと話をしていてまだ気づいていない。

とりあえずカウンターに向かったところで、

「シンジー!!」

まさか一番気付かないと思っていたジョージが最初にシンジに気付いた。

シンジは、勘弁してくれよ、という顔をしてジョージを見た後サラの方を見ると、サラもこちらを見て、笑顔で手を振ったので、シンジも軽く手を上げて応えた。

またジョージの武勇伝が再会したため、今のうちにメニューを選んで、席が空いているミカの前に向かった。その横にはアレンとミックが座っている。

「失礼します」

上官であるアレンとミカの方を向いて挨拶しながら座った。

ミックが「お疲れ」と軽く挨拶してきたのでシンジも「お疲れ様です」と返した。

「随分と騒がしいんですね」

カレーライスを頬張りながら、三人それぞれの目を見て話しかけた。

「今日くらいはな。ジョージもモビルスーツ二機を撃墜している。たまにはいいんじゃないか」

アレンの表情が珍しく緩んでいる。

「さっきの戦闘、機体の損傷が一番大きかったのがお前のストームブリンガーだったみたいだな。あのリックドム、そんなに凄かったのか?」

ミカは改めてシンジに聞いた。 

「とにかく気迫が凄かったです。ほぼ出力全開のままでしたから、躊躇したら押し込まれそうでした。パイロットとしての腕も高いですね。まだこんな凄腕パイロットがいるなんて、やっぱりジオンは凄いです」

「エースパイロットと呼ばれた者の多くは一年戦争で戦死したと言われているけど、まだまだ生き残りも多いんだろうな。真紅の稲妻、ジオンの白狼、ソロモンの悪魔なんかも行方不明なんだろう?いつかそいつらとも相対する時が来るのかもしれないな」

ミカの口調はシンジに改めて諭すようだった。

「その時が来てもいいように、しっかりと備えておかないといけないですね」

シンジは一応カレーのスプーンを置いて、ミカに答えた。

「よろしく頼むぞ、ニュータイプ

ミックがウインクした。

「やめてくださいよぉ」

ミカとミックはシンジの返しに笑いで答え、アレンも少し笑顔を見せた。

それにしてもジョージの独演会はいつ終わるんだ?

 

7月5日

アルバトロス隊がルナツーに帰港すると、ルナツーは歓迎ムード一色だった。

公にはなっていないとは言え、コロニー落としを阻止したのだ。

ルナツー指令のリックも彼らを讃え、何と特別ボーナスの支給と一週間の休暇まで与える事にした。

 

7月7日21時

民間エリアの自宅のリビングの大型モニターの前に置いてあるソファーに座って、シンジはモニターを見つめていた。

ようやく先日のコロニー移動について、連邦政府が公式会見を開くのだ。

それは民放局からSNSまでほぼ全てのメディアを通じて、同時に公開される。

公式発表はこうだった。

「先日のサイド5のコロニー「アイランド S」の移動は、偶発的な事故により発生したもので、運悪く地球落下軌道に乗ってしまったが、地球軌道艦隊の懸命な処置によって、コロニーは無事サイド5に戻された」

また、付近で戦闘らしき光の目撃情報が複数寄せられている件については、

「そんな事実は一切無い」

とキッパリ否定している。

「今回の事故については大変遺憾に思う。コロニー公社には事故原因の追求と再発防止策を検討させている。もちろん我々も全面的な協力を惜しまない。我々の地球は…」

モニターの中の広報官は、目を尖らせ、何とも険しい表情をしている。

「こんな事、一体どれだけの人が信じるのかしらね」

シャワーを浴び終わったサラが、バスタオルを体に巻いて、乾かしていない頭にタオルを巻いて、シンジの後ろから話しかけた。

「信じる信じないじゃないさ。『真実』を葬り去り、自分達で作った『事実』で上書きして、それを歴史として語り継ぐ。これで連邦は権益を守っているのさ」

「納得いかないわね」

シンジの左隣に座ったサラは、頭に巻いたタオルを解いてまだ湿っている髪を拭きながら言った。

「連邦に正義なんて無い。こんな事を続けていると、いつか綻びができて、それが連邦を蝕んでくるさ」

「また戦争になるの?」

「それは分からないよ。でもこの連邦の体制に誰も納得してないし、反感も持つ人も多いと思うよ」

「あ〜あ、私たちの未来はどうなるのかしらね。シンジはニュータイプなんでしょ?もうどんな未来が来るか分かっているんじゃないの?」

「馬鹿言うなよ。俺はニュータイプでもなんでも無いし、さっき分からないって言っただろ」

拭いている髪からはとても良いフレグランスが漂ってくる。イライラも収まりそうだ。

「私たちの子供には、戦争の無い未来になってほしいね」

宇宙世紀100年まであと20年だしな。こんな時代はそれまでに終わらせて、100年代は平和な世界になっててほしいもんだな…って、子供!?、できたのか、子供!?」

シンジが驚いたのは「できてしまった」では無い、別の理由だった。

「私には子供はできないよ…」

急にサラのトーンが下がった。

サラは10代の時に数回堕胎手術を経験している。医者からは「これが最後」とまで言われた。もう子供が出来ない体になっていても不思議では無い。

もちろんシンジもその事は知っている。

「二人にとって望ましい未来は必ず来るよ」

シンジのポジティブな言葉はサラのトーンを押し上げる。そしてついこんな事を言ってしまう。

「これからもシンジはたくさんの人と出会うでしょ?いつか私のことも忘れちゃうんだよね」

100%「NO」という答えが来ると分かっていてもこんな質問をしてしまう。

例え宇宙世紀になっても、女心と、その心が男性に求めるものは変わらない。

「もし忘れたら…」

「忘れたら?」

サラは下からシンジを見上げるように聞き返した。

「忘れたら、もう一度トライするよ」

サラはシンジに寄り添って、左肩に頭を乗せて言った。

「うん…待ってるね」

シンジもサラの左肩を抱き寄せた。

「本当はシンジの子供ほしいんだよ...」

サラは声にはせず、口だけを動かした。

シンジには決して聞かれたくないが、想いは届けたかった。

シンジの側にいれること、そして愛する人の子を宿さないかもしれない気持ちが重なり、一筋の涙を流させた。

こんな優しい時間が永遠に続く、二人はそう思える時間を過ごしていた。

しかし現実は二人の想いとは裏腹に動いてしまう。

それこそが現実なのだろう。

 

【第十七話】 辞令 に続く。

2021年12月18日12時更新予定

 

【注記】この物語はフィクションであり非公式です。また、公式には出てこない機体も登場したり、一部独自の設定があるなど、パラレルワールド的な物語である事をご了承ください。