機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

一年戦争後の宇宙世紀の世界観を独自の目線で表現しています。

【第十話】ミノフスキー粒子の霧の中へ

f:id:uvertime:20210902211549j:plain

機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

【第十話】ミノフスキー粒子の霧の中へ

 

宇宙世紀0080年6月29日9時

 

ルナツーの指令室には司令官のリック・クルーガ、副指令のキム・シン、そしてシナプス大佐が揃っていた。そこへシンジも来た。

シンジは昨日、無事帰還を果たし、翌日の今日はルナツー上層部による尋問が始まるのである。

尋問と言うと聞こえは厳しいが、戦闘中に漂流しその後帰還したいきさつをシンジから聞き取るためだ。

「体調はどうだ?」

シナプス艦長が聞いた。

「昨日はぐっすり眠れましたから…」

シンジが最後まで答えなくても、シナプスは少し顔を緩めた。

「では昨日の件について話してもらおうか」

リックがテーブルの上に手を置いて聞いた。

「はい」

シンジはアークに流れ着いた経緯からアポリとのやり取りを、ストームブリンガーに記録された画像と共に答えた。

アポリとのやり取りについては、本来なら「何故捕虜にしなかった?」、「何故アジトの在処を聞き出さなかった?」と問われるのだろうが、ルナツーの上層部はシンジが人道的に処置したことを理解しているため問い詰めはしない。それが分かっているからこそシンジも包み隠さず話した。

尋問は3時間ほどで終了した。

今回の件はおおよそ公にする事は問題はないが、アークのようなある程度衛星としての機能を持ったままの廃棄衛星は幾つか存在する。それらの中でジオン残党によって摂取されているものはないか改めて調査が必要がある事についは、まだ公にしないという事になった。

ちょうどお昼休みだ。

シンジはそのまま食堂に向かった。

食堂に入ると、「おーい、シンジー!」と既に昼食を摂っているジョージが手を振っていた。そこにはアレン隊長、昨日共に出撃したレイン少尉、そしてアリス少尉もいる。

シンジは手を挙げて応えて、ひとまずカウンターに向かった。

この後は身体検査がある。

「昼食は摂ってもいいが、あっさりしたものにしておいてくれ」とドクターから言われている。そのため、小盛りのご飯に焼き魚、お味噌汁という日本の朝食のようなメニューをチョイスした。シンジはやはり日本の血を引いている。宇宙世紀のこの時代、国籍がどうのということは無いのだが、シンジは少なからずこだわりを持っていた。

ジョージが「ここだよ」と自分の右隣の席を指を差した。

お盆を置いて座ると、長テーブルの左前にアレン隊長が座っていて、ゆっくりシンジの方を見て「話せるのか?」と問われ、「はい、大丈夫です」とシンジは答えた。

今回のような不測の事態があった後は、上層部に報告するまでは決して他言してはならないと軍で定められている。

個人が知りえた情報の機密性の判断は個人レベルではできないためだ。それに、盗聴やスパイがいる可能性も決してゼロでなはい。

そのためにも、まずは限られた空間で限られた人物にのみ話しをするまでは他言してはならない。

緘口令は軍に所属していれば常識中の常識なのだ。

今回の件についても、公にしていいと言われはしたが、あまり詳細ではなく、断片的に話をした。

「ジオンにもそんなパイロットがいるのね」

レインが反応した。

「少なくともダイクン派はこういう人物が多いみたいですよ」

シンジが答えると、

「でも、またそのパイロットと戦場で出会ったら、シンジ、戦いづらいでしょ?」

今度はアリスが反応した。

「あまり敵パイロットのことは考えない方がいい。命のやり取りをする人物のことなんて知らない方がいいんだ」

アレン隊長は大人の意見だ。

「おそらくあちらも同じ思いだと思います。でもこの広い宇宙でまた出会うことができたら、それはラッキーだと思いたいですね。その時はまたこちらの思い、伝えたいです」

「それって、ニュータイプの感性?」

ジョージがシンジを覗き込むように聞いてきた。

「ばか、そんなんじゃないよ」

シンジは照れ臭そうな態度を隠すためみそ汁を啜った。

「でもさ、ニュータイプって新しい未来を創る存在なんだろ、だからシンジは戻ってこれらんだよ!」

ジョージは恥ずかしげもなく大きな声を出すから、シンジとアレンが少しムッとすると、

「また、もう、やめなさいジョージ!」

アリスが右隣に座っているジョージを制した。

アリスは階級は同じ少尉だが21歳でシンジやジョージの一つ上だ。

ジョージの世話役みたいな存在で、お互い悪い気はしていないみたいだが、決して付き合っているわけではない。友達以上恋人未満といったところだ。

「ところでレイン少尉、少尉に聞きたいことがあるんですが」

ジョージとアリスのやり取りはとりあえず置いといて、シンジはレインに聞いた。

「何?あ、この前の戦闘のこと?」

「はい。あの後どうなったのかずっと気になってました」

帰還後はバタバタしていて、そこまで聞くことができなかった。

「二機が飛び去った後、しばらく睨み合いが続いたんだけど、こちらが武器を引くと、ドムはそのまま後退して行ったわ。もう戦える状況じゃなかったのよ。私達もすぐホーネットに戻ってホーネットのレーダーで探知したけど、ストームブリンガーは捕捉できなかったし」

「ホーネットから連絡を受けてルナツーからも探査したんだがな、やはり捕捉できなかった」

アレンが申し訳なさそうな表情をしてレインに続いた。

「でもあの状況から帰って来れるんだもん。ジョージじゃ無いけど、私もシンジには目に見えない何かがあるのかもしれないって思ってるよ」

レインはシンジに優しい笑顔を向けた。

「時間だ、我々はモビルスーツデッキに戻るぞ」

アレンはそう言うとバッと立ち上がった。

時計を見ると一時十分前だ。

「本当だ、もんこんな時間なんだ。また後でな、シンジ」

ジョージもそう言うと立ち上がって、レインとアリスも、

「じゃあね」

「ゆっくり休んでね」

とシンジに声をかけた。

「ありがとう」

シンジが答えると、四人は食堂を後にした。

シンジもこの後は身体検査だ。

特に時間は決まっていないが、ちょうど食べ終わった事だし、食器を片付けてそのまま医務室に向かった。

 

扉を開けると、ちょうどサラが目の前にいた。

「あら、シンジ、早かったわね」

と、笑顔で迎えてくれた。

昨日の帰還後に再会した時は涙を見せたサラ。滅多に涙を見せないサラだが、昨日ばかりは覚悟をしていたところもあったのかもしれない。

でも今日はいつもの笑顔を取り戻していた。

サラに導かれ医務室に入り、ドクターミックによって全身とメンタルの検査が行われた。

最初に尿と血液を採取する。

そうすれば、全ての検査が終わる頃には結果が出る。

身体の検査が終わると、今度はメンタルの検査だ。

宇宙を丸一日徨っている。メンタルにも障害がないかの検査も重要な項目だ。

みっちり三時間の検査が終了し、特に以上なしの判定だった。サラもホッとしている。

今夜はサラとゆっくり過ごせそうだ。

明日からはまた軍務が始まる。


ちょうどその頃、ルナツーの司令室にも一報が入った。

L5近傍の宙域で、未確認のモビルスーツらしき影が複数動いてのを監視衛星がキャッチしたらしい。

しかもその宙域は前大戦の影響なのか、ミノフスキー粒子がえらく濃い。

そしてそこには廃棄衛星「アズウェル」がある。

リック達が睨んだ通り、ジオンが廃棄衛星を摂取しているのかもしれない。

ミノフスキー粒子を隠れ蓑にして廃棄衛星に潜んでいる事は十分考えられる。

アルバトロス隊は、このミノフスキー粒子の霧の中を捜索することになった。

だがこれは、ジオン残党による揺動なのだが、まだ連邦はその事に気付いていない。

これから戦後最初の大規模な紛争が始まろうとしている。

 

【第十一話】フェイク へ続く

2021年11月6日12時配信予定