機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第六話】ストームブリンガー
「ピピピピ、ピピピピ」
アラームが鳴る。
シンジは既に覚醒していた。
むくっと起き上がりアラームを止める。
一週間の休みを経て、今日から軍務の再開である。
結局休み中の一番のイベントは健康診断だった。本来休暇中にするものでは無いが、勤務中もなかなか出来ないので、シンジの希望で休暇中にしてもらった。
看護師がサラなので、比較的気楽にできた。
身体も精神の両方受診したが、特に問題は見られなかった。
心身ともに健康だ。
後はルナツーの街をぶらついたり、サラと一夜を過ごしたくらいだ。
8時からのブリーフィング向けて準備をして朝食に向かった。
8月26日7時50分
第一ブリーフィングルームにはほとんどのメンバーが集まっていた。
リック司令官が壇上に立ってパソコンから写し出されたプロジェクターの画面を確認している。
少し見渡すとジャージが手を振っていた。
隣の席を空けて待っていた様だ。
「よ」
「やあ」
ジャージの横に座り軽く挨拶し、手元に有った電子ペーパーを手に取った。
ジャージが横から覗き込んで
「サラとは毎日会ってたのか、ん?ん?」
ジャージから予想通りの質問がきたので、ジャージの顔は見ずに電子ペーパーを見ながら
「会ってないよ」
とそっけない答えてやった。
「マジかよ!?お前ら大丈夫なのか、ん?ん?」
「お前には関係ないだろ」
露骨にそっけない態度で答えると
「ちぇ」
と、ジャージも手元の電子ペーパーを手に取った。
実際には半分くらいはサラと会っていたので、半分嘘だった。
そうこうしているうちに8時だ。
ブリーフィングが始まった。
8月26日9時15分
パイロットスーツに着替えたシンジはモビルスーツデッキにやってきた。改修されたジム・ドミナンスを受領するためだ。
普段ドミナンスを定着させているエリアに流れていくと、見慣れない造形のモビルスーツが見えた。
あれだ。
そのモビルスーツの足元に立って見上げると、シンジは自分の目を疑った。
胸部もドミナンスとは全く違う形状をしているし、トリコロールカラーがこの機体はガンダムだということを強くアピールしている。
背中は大型のバックパックが装備され、大型スラスターが縦に二つ並んでいる。左右にはプロペラントタンクも装着されている。もちろんビームサーベルも二本しっかり装備されている。
「これ…か?」
本当にこれが俺のドミナンスなのか?
シンジは少し思考が混乱していた。
でも新型機を開発したなんて話も出ていない。
そんなシンジの横にヌッとモーリンが現れた。
自分が横にいることに気づかないシンジに
「どうかね?」
と話しかけると、シンジはビクッとした。
そこにはモーリンとニヤニヤしたアルバトロス隊の面々もあった。
「大尉どの、これは一体…?」
シンジはまだ現実を受け入れられていない様子で、恐る恐る聞いた。
「驚かせてすまなかったな。これが君の新しい機体だ。」
「元々ガンダムになる予定だったのですか?」
「いや、新しいセンサーに交換するのに頭部ユニットごと交換することになってな。急遽ガンダムフェイスに変更したんだよ。」
「ちょっとびっくりしました。でも自分の乗る機体がガンダムになって嬉しく思ってます!」
シンジは弾けるような笑顔になってモーリンに向かってそう答えた。
「そーだよ!俺もガンダム乗りたいよ!」
ジョージが無理矢理二人の会話に入ってきた。
とっさに女性パイロットのアリス・ニー少尉がジョージを制した。
シンジは続けた。
「名前はなんと?」
「まだ決めて無いんだよ。君の意見を聞こうと思ってな。何かないかね?」
急に聞かれても…、みたいに少し困った感じがしたシンジだったが、改めて機体を見直した。
そして独り言のように呟く。
「ストームブリンガー…」
「なんだね?」
よく聞き取れなかったのでモーリンはもう一度聞き直した。
今度はモーリンの方を向いてはっきりと、力強く応えた。
「ほう、力強い名前だ。」
モーリンも納得のいく顔をしていた。
「よし、ではこの機体の説明をしたい。メカニックルームに来てくれるか?」
メカニックルームはデッキの脇にあるちょっとした会議室みたいな小部屋で、数ヶ所ある。
そこにシンジとモーリン、メカニックのジン・ナム曹長が入って行った。
8月26日10時
シンジはストームブリンガーのコックピットにいた。
メカニックのジン・ナムに細かい調整をしてもらっている。
コックピットユニット自体はドミナンスと同じなため、取り分け違和感は無い。
しかしなんだろう、やはり今までと違う感覚がある。
今回のテストは大きく3パターン。
1つ目は出力30%で機体全体のバランスの確認、いわゆる慣らしだ。
2つ目は出力50%で武装を使った実戦を意識した稼働テスト。
そして3つ目は出力100%での機体とパイロットに掛かる負担を確認するテストだ。
この3つ目があるおかげで、ランチはテスト終了後となる。
コックピットの調整が終わりジン・ナムがコックピットから出て行った。
そして出て行ったところでこちらに振り返り右手の親指を立てた。
シンジも右手の親指を立てた。
そしてコックピットハッチを閉じるボタンを押した。
メインモニターが上から下がってきて、同時にハッチも閉じた。
モニターには「HATCH CLOSE」の文字が出て、インパネには酸素が充満したサインも点灯した。
各モニター、インパネにも異常を示すサインはなかった。
いよいよシェイクダウンの開始である。
歩行モードにしてカタパルトまで歩いて、そのままカタパルトに足を乗せた。
全てオートでやってくれる。
カタパルトは移動していき、カタパルトレールの前まで移動した。
レールの前で一旦停止。カタパルトハッチの前のカウントダウンが「0」を示すと「ハッチ開放!」という声と共にカタパルトハッチがゆっくり開き始めた。
目の前は既に漆黒の宇宙、モビルスーツデッキも眞空状態だ。
モビルスーツデッキにいる人間はノーマルスーツ(宇宙服)を着るか、エアロックに退避しないと、瞬く間に絶命してしまう。
ハッチ開放五分前くらいからアナウンスや各モニターで注意を促す。
ただ一人として生身の人間がいないことを確認した上でのハッチの解放だ。
この第一カタパルトは地球に向かっているため、正面に地球が見える。
地球に向かって発進しているみたいで、シンジはこのカタパルトからの発進が好きだ。
「ストームブリンガーからのシグナルを受信、システムオールグリーン」
CICからのオペレータ、ユナ・シーンの声がコックピットに響く。
シンジは設定を待機モードからテストモードに切り替えた。
そしてインパネの「カタパルト射出」ボタンを押す。機体がカタパルト射出体勢になる。
膝を曲げやや前屈みになり、カタパルト射出時のGに耐えるための体勢だ。
カタパルト脇にあるモニターにカウントダウンが表示される。
「3・2・1・GO」
と同時に
「シンジ・アラタ少尉、ガンダムストームブリンガー、行きます!!」
シンジの掛け声と同時にストームブリンガーはカタパルトで射出された。
シンジの体全体に激しくGがかかる。
その時間三秒程だ。
カタパルトから放出されたら、右足のスロットルを一気に踏み込んだ。
ジェネレーターが唸りを上げた。
ストームブリンガーとして生まれ変わって初めての宇宙だ。踊る心で飛び出して行った。
6月26日14時
【第七話】宇宙(そら)の残骸 に続く
注記 2021年10月6日次回タイトル変更
次回2021年10月9日12時配信予定
【注記】この物語はフィクションであり非公式です。また、公式には出てこない機体も登場するなど、パラレルワールド的な物語である事をご了承ください。