機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第七話】宇宙(そら)の残骸
ストームブリンガーに改修されて初めての捜索作戦である。
今回の捜索エリアは、L3を挟んで反対側(L4寄り)の月軌道上で、比較的近傍だ。
このエリアも開戦以前はデブリなど無かったのだが、開戦後のジオンの攻撃でサイド1、2、4、5の四つのサイドが攻撃を受け、特にサイド2は壊滅的な被害を受け、他のサイドにも甚大な被害をもたらした。
更にルウム戦役で連邦艦隊は100隻近い戦艦を撃沈させられている。
それらの残骸がデブリとなって地球軌道上に広がっていき、一年以上かけて月軌道も覆うくらいのデブリとなっている。
元は生活空間だったコロニーの残骸には生活感のある漂流物も数多く、人の遺体も回収しきれていない。
地球にはコロニー落としにより甚大な被害が出ているが、宇宙にもまた「戦争の代償、と言うにはあまりに大きな傷」が至るところに残っている。
今回の捜索はシンジを隊長として、ミック・ジャック少尉とレイン・デーモン少尉の三人で小隊を組んでいる。
ミックは二十二歳、レインは二十一歳とシンジより年上だ。
ミックはジョージとは逆の、無口で控えめな性格だが、もちろんパイロットしては超一流と言える。
またレインは女性ながら見た目通りの男勝りの性格で、今回の小隊では副隊長的な位置付でシンジのサポートをしている。
ミックの機体はジムスナイパーⅡ、連邦製の量産モビルスーツとしては最強で、カタログスペックではRX-78ガンダムを超えている。
スナイパーと名付けられているが、射撃に特化している訳ではなく、そもそものハイスペックの機体に更にスナイパー機能を追加している、超優れモノだ。
一方のレインは中期型のジム宇宙用だ。
ジェネレータを高出力のものに換装しているため、RX-78と同じビームライフルを装備している。ミックのジムスナイパーⅡも同じビームライフルを装備している。
今回はデブリの中でも単機での行動では無く三機編隊での行動とした。
三機は大小様々なデブリを交わしながら捜索している。
ストームブリンガーも新型のレーダーを装備しているため、索敵範囲も広くなっている。それでもミノフスキー粒子は濃いため、レーダーにもムラがあり、結局は目が頼りとなる。
すると進行方向にやたらと大きなデブリが目に付いた。
始めは何か分からなかったが、近づいていくとそれはコロニーのベイの部分がそのままの形で残っているのだと分かった。
直径二キロもある巨大な円柱の塊だ。コロニーの大きさを改めて実感できる。
「まさかな...」
そんな気持ちもありつつベイの「口」とも言える出入口付近に向かった。
念のために減速、スロー航行で近づく。
この判断が正しいことがこの後わかる。
「口」の部分から何か流れ出てきた。
三機はすぐさま停止し、「口」の部分に対して死角の位置に付いた。
「どう思う?」
ミックが二人に聞いた。
三機はそれぞれ触れ合っているため、接触回線で傍受されずに会話できる。
「ジオンとは限らないけどね」
レインはそう答えたが、何とも言えない。
シンジも同じ思いだ。ジャンク屋(廃棄物回収業者)が回収しに来ていることは十分考えられる。彼らにとっては宝の山だからだ。
「しばらく待機していよう。ミックとレインは周囲の索敵を頼む」
「了解」
とにかく今は焦って動くより、静観する方が正解と判断した。
そして事態が動かないまま10分ほど過ぎただろうか。
「口」から二機のモビルスーツが飛び出した。
「ビンゴだな」
ミックがモニターに映る二人に向かってはにかんだ。
「よし、俺とレインで追いかける。ミックはベイの中を調べてくれ。」
シンジは冷静だった。
「了解」
とミックが答える。
「レイン、行くぞ」
シンジの声と同時に二機は出力全開で追跡を始めた。
一方のミックはベイに向かった。
「口」の部分にゆっくり近づき、覗き込むようにベイの中を見渡した。
「口」といっても横200m、縦100mと巨大だ。輸送船や戦艦も入港できる。
中は光が無く肉眼では確認できないため赤外線暗視モードに切り替える。
何か箱の様なものか四方の壁に取り付けられていて、異様な光も発している。
「これは、まさか!?」
ミックはすぐに察しがついた。
その箱は爆弾で、「口」に入るとセンサーで爆発する仕掛けだと推測できた。
ミックはベイの方を向いたまま後方に下がっていき、ある程度ベイとの距離をとったら、「口」に向かってビームライフを構えた。
キャッチできる箱にマルチロックオン。
発射したビームは全て命中し爆発。ロックしなかった爆弾にも誘爆し大爆発を起こす。
「口」の中で爆発したベイは破裂するように砕け散った。
「よし、二機を追う」
ぼそっと声に出し、二機が向かった方へ飛んで行った。
シンジとレインは逃げる二機を射程に収めていた。
ゲルググタイプとドムタイプだ。
ドムはノーマルのリックドムと思われるが、ゲルググはどうやらゲルググJGのようだ。
ゲルググJGは終戦直前に少数生産されたジオンの中でも最高峰の超高性能機だ。
シールドを装備していないゲルググJGは高い機動性と戦闘能力を持っている。ストームブリンガーと似たコンセプトだ。
となると当然パイロットもエース級だ。これは一筋縄ではいかない。
レインと共に何度か威嚇射撃をしているが動じる様子はない。リックドムのパイロットもかなりの腕前の様だ。追ってくる二機をものともせず、ゲルググと共にデブリをうまくかわしながら逃走している。
シンジたちは少し焦った。このままでは埒が明かない。逃走先に大部隊が待ち構えていることも想定される。このまま追跡するか否か判断に迷っていた。
彼らにとっても連邦に鉢合わせることは想定外だったため、今は逃げ切ることを優先していたが、追ってくる機体の一機はデータにないガンダムタイプだ。
まともに張り合ってもすんなり勝てる相手ではないことが予想できるのだが、このまま逃げ切ることもできなさそうだ。
なら一気に反撃に転じる方がむしろ良い結果を生むかもしれない。勝たなくていい、この場から立ち去ることを優先する上での反撃だ。
ゲルググのパイロットの腹は決まった。ドムとコンタクトし、3、2、1、二機は逆噴射をかけ、追ってくる二機に向かって反撃に転じた。
「何!?」
ゲルググは左手で抜いたビームサーベルで一気に切りかかってきたため、シンジは一瞬たじろいだ。
シンジは回避行動を取ろうと逆噴射とアポジモータでバランスを取り、回避プログラムにより寸でのところでかわした。
レインもドムの攻撃をシールドで上手く受け流したようだ。
しかしゲルググは姿勢を立て直さないですぐさま右手のビームライフルをストームブリンガーに向かって発射した。これもギリギリのところでかわしたが、あの態勢からこんな正確な射撃ができる機体とパイロットのレベルの高さがうかがえる。
もちろんシンジも負けてはいない。
まだ姿勢を立て直していないゲルググに今度はこちらから攻撃だ。
二連ビームキャノンを構えてロックしようとするが、動きが早くロックできない。
「ならば」
左腕のボックスタイプ・ビームサーベルを成型し出力全開でゲルググに迫り切りつける。ゲルググも左腕でビームサーベルを持ち受け止める。ビーム同士の干渉で無数の火花が飛び散る。
お互いサーベルを受け流し、また姿勢を崩したゲルググが後方へ下がる。
そこで一瞬のスキがゲルググにできたため、今度はサーベルを収めそのままビームを発射した。
ストームブリンガーに改修するにあたって追加された機能だ。早速役に立った。
ビームはゲルググの左肩に命中し、その衝撃でビームサーベルが手から離れ、ゲルググはまた姿勢を崩した。
「これで終わりだ!」
シンジは再度サーベルを成型し左腕を切り落とそうと接近すると、スっとかわされた。
「クッ」
ストームブリンガーのサーベルをかわしたゲルググは、そのままストームブリンガーにしがみついた。
「何だ、何のつもりだ!?」
シンジはゲルググから離れようとしたが、
「何だと!」
「それだけの腕と才能があるのに、連邦の犬のままでいいのか、お前たちは!」
「俺は、連邦の犬なんかじゃない!!」
離そうとするがしがみついたゲルググは離れない。
そこへベイ部分を破壊したミックが戻ってきた。
ミックはゲルググにしがみつかれているストームブリンガーを補足した。
「何をやっている?」
ミックはしがみついたゲルググを狙撃しようと頭部のバイザーを下げスナイパーモードに切り替えた。
もちろん直撃させる訳にはいかない。狙うなら、背部に装備されているプロペラントタンクだ。
ゲルググも接近するジムスナイパーⅡに気付き離脱しようとするが、今度はストームブリンガーがしがみついて離れない。
「今だ!」
逆に身動きが取れなくなったゲルググのプロペラントタンクにロックを合わせビームを発射したミック。
プロペラントタンクはそれほど大きくない。
ビームライフルの一撃で二本のプロペラントタンクを打ち抜いた。
「よし」
狙い通り狙撃できたミックはそのまま二機に接近しようとしたが、その時だ。
ゲルググのプロペラントタンクから異様な光を発した直後、猛スピードで飛び去って行った。
「シンジ!」
ゲルググと共にストームブリンガーもしがみついたまま飛ばされて行ったため、ミックは二機を追いかけたが、追いつかない。
「シンジ!」
もう一度叫んだが届かない。二機はわずか数秒でデブリの中に消えていった。
【第八話】始まりの場所 へ続く。
2021年10月16日12時配信予定
【注記】この物語はフィクションであり非公式です。また、公式には出てこない機体も登場するなど、パラレルワールド的な物語である事をご了承ください。