機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

一年戦争後の宇宙世紀の世界観を独自の目線で表現しています。

【第八話】始まりの場所

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機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

【第八話】始まりの場所

 

「何だ??」

 

大きな衝撃の後、突然後方に向かって猛スピードで加速した。

「ビッ ビッ ビッ ビッ」

速度異常のアラームが鳴り、インパネや全てのモニターにも速度異常のEmergencyが赤点滅している。

シンジは機体の状態を確認したが異常は見つからない。

となると原因はゲルググだ。

ミックの狙撃によりダメージを受けたジェネレータが暴走したのかもしれない。

しがみついた事が逆に仇になった。

だがこのまま流され続けたら宇宙漂流だ。

隕石やデブリに衝突なんてしようもんなら木っ端みじんとなってしまう。

幸い背中越しに進んでいるからバーニアの出力で減速できる。

普段はしない出力100%に設定、シンジはフットペダルを踏み込むと、ジェネレータがうなりをあげ、バーニアから機体を覆うくらいの光が放たれた。

背中にGが一気にのし掛かる。

ゲルググも暴走が収まったようで、ジェネレータが次第に弱くなってきた。こちらも出力を調整して徐々に減速させていく。速度異常のアラームも消えた。

シンジは月軌道に相対速度を合わせて停止させた。

ここで言う停止とは、月の軌道に速度を合わせたことで、決して0km/hになったわけではない。月の軌道に速度を合わせることでデブリや隕石と同じ速度で動くため、あたかも停止してる感覚になる。

だが実際は月軌道速度1023m/s、時速にして3682.8km/hの速度で移動しているのだ。

だが止まったからといっても何かが解決された訳ではない。ここからが本当の問題だ。

ひとまず機体に異常が無いことを改めて確認していると、

ガンダムパイロット、聞こえるか?」

ゲルググパイロットからの接触回線だ。

「ああ、聞こえている」

シンジは答えた。

「何故助けるような真似をした?そのまま撃墜すればいいものを。」

「勘違いするなよ。この状況で俺一人だけが助かる手段なんて無いだろ。それに、今となっては一人きりで宇宙を彷徨うはめにならなくてよかったさ。」

「…そうだな」

ゲルググパイロットは少し声を詰まらせて答えた。

「そちらの機体はどうなんだ?やっぱりジェネレータの暴走が原因か?」

「どうやらプロペラントをやられた時に、推進剤が逆流して暴走したみたいだ。システムをリセットしたから、今は再起動中だ。」

なるほど、それでジェネレータの暴走が止まったのか。

「そっちの機体はどうなんだ?」

今度はゲルググパイロットが聞いてきた。

「こっちは機体自体には問題は無いが、推進剤が20%ほどしか残っていないから移動もままならないだろうな。」

「そうか...」

「ここからだとルナツーまでは届かない。ほかの連邦の管理してる衛星はこの空域には無いし。ジオンも無いんだろ?」

「ああ、残念ながらな。」

ふぅ。

シンジは大きく息をついた。

とにかくこの状況を打開しなければ。シンジは何かこの宙域にシステムが生きている衛星なり隕石なり無いか検索した。

連邦は地球圏全域の各エリア毎にポイントを割り振っている。これが戦闘後や別行動した後の合流場所の目安になる。遭難や漂流した時もポイントで自分がどの位置にいるかを把握する事ができる。

シンジはこのエリアのポイントが自分が知っているポイントの近傍だという事に気づいた。

まだ俺の運命は尽きていない。

ゲルググパイロットに問いかけた。

「推進剤はどれくらい残っているんだ?近くに昔使っていた衛星を見つけたから、そこまで一時間くらいで行けそうだけど、どうだ?」

「低巡航で行くならなんとか届きそうだが、いいのか?」

「今は無人の衛星だから大丈夫だ。」

シンジはそのポイントを目的地に設定して移動を始めた。

 

概ね一時間、デブリの無いクリアな宙域を抜けると、また目の前にアステロイドが広がっているのが見えた。サイド7に近い宙域だが、それでもモビルスーツの自力飛行で行く距離では無い。

「この宙域にもこんなエリアがあったのか」

ゲルググパイロットは推進剤の残りを気にしながらガンダムの背後をトレースしていた。大小さまざまな石ころが並んでいる中、一際大きな隕石が目に付いた。

ガンダムは真っ直ぐそこに向かっている。

「あそこか」

間近まで接近すると、ガンダムは岩壁に近づいて何かを操作しようとしていた。

ズームするとレバーらしき物を動かしたようだ。

すると岩の表面が動き始め、そのまま扉のように開いていく。

モビルスーツが遊に入れるサイズだ。

ガンダムはそのまま中に入り、壁のレバーを操作したら照明が付いた。

中は小ぶりだがモビルスーツのハンガーデッキのようだ。

推進剤を振り絞って減速させ、ゲルググをいわゆる「床」に着地させた。足の裏に電磁石が装備されているため、床に着地すれば浮く事はない。

ふぅ。

一旦一息つく。

すると

「その機体は…

ガンダムパイロットからの接触回線だ。

コネクタの規格はザクと共通なのか?」

「あ、ああ、同じだ」

「なら正面の「Z」の枠で止めてくれ。天井にチャージャーのパイプがあるからチャージできるはずだ」

ガンダムはそのまま歩いて右側の「U」の枠に止まった。

自分のゲルググも歩いて「Z」の枠に止めた。

「天井にチャージャーがあるのか?」

コックピットハッチを開けて機外に出て上を見上げるとチャージャーのアイコンが見えた。ここも無重力だ。天井に向かって流れてそのアイコンに取り付くと、カバーになっていた。開けるとパイプ状のチャージャーが収められていた。

これを機体のコネクターに差し込んでチャージすれば、推進剤が回復、つまり満タンになる。

さっきの損傷もプロペラントタンクがやられただけで、推進剤の逆流はあったものの機体そのものは正常だ。

先端を引っ張り出して、ゲルググバックパックの上面まで伸ばした。

ネクターの直径は約60cm、やはり自動車と比べても桁違いに太い。

ゲルググのコネクタはバックパックの上面に備わっている。カバーを開けてコネクタに差し込んだ。

どうやら旧タイプのようだ、チャージが始まらない。

もう一度天井の操作パネルを操作すると、グォン、と音がした。チャージが始まったようだ。これで1時間ほどで満タンになる。

エアロックの方を見ると、ガンダムパイロットは既にエアロックの前に立っていた。

自分もそこへ向かう。

エアロックのドアの前に来ると、ガンダムパイロットがドアを開いて二人同時にエアロックに入った。

ドアを閉めると数秒で、「エアOK」のブルーの表示と共に生活空間側のドアが開いた。

するとガンダムパイロットはヘルメットを外した。まだ若い顔立ちだ。

こちらを見て

「シンジ・アラタ少尉だ」

と言って右手を差し伸べてきた。

自分もヘルメットを取って答えた。

「俺はアポリ、アポリ・ベー中尉だ」

と言って握手に答えた。

そのまま

「ここは何なんだ?しばらくの間使った形跡も無さそうだが」

と問いかけるとシンジは、スッとはにかんで、

「秘密基地さ」

と答えたが、アポリは「ちゃんと答えてくれ」という目をしていたので、

「この先に食堂がある。そこで話そう」

そう言ってシンジは通路を流れていった。アポリもそれを追う。

 

通路の先の突き当たりのドアが食堂の入り口だ。

中に入ってライトを付けるとシンジは冷蔵庫らしきドアを開けて

「飲み物は何がいい?」

と聞いてきたから

「ブラックコーヒーを頼めるか?」

アポリが答えると、ブラックコーヒーの真空パウチをアポリの方に流した。

わざわざ直接手渡さなくてもいい無重力は、こういう時はとても便利だ。

アポリは受け取って

「すまない」

と答えると念のため賞味期限を確認した。

宇宙での生活では体調管理の重要性はなかり高い。ましてや今は半漂流状態だ。コックピットの中で腹痛なんて起きたら目も立てられない。

賞味期限は0085年と表示されていた。

「食べ物もあるから欲しければ言ってくれ」

「大丈夫だ」

と答えてシンジを見ると、シンジは固形物のパウチを食べていた。

シンジはややもぐもぐしながら

「ここは元々サイド7の資源衛星「アーク」だったんだけど、V作戦が発動されてすぐモビルスーツのテストベースに改修されたんだ。」

シンジは突然話し始めた。

「サイド7で建造した試験機や実験機の一部をここに運んでテストしていてな。正に『始まりの場所』だな。終戦でその機能をルナツーとコンペイトウ、つまりソロモンだな、その二つに集約したからこの衛星は廃止されたけど一部のシステムを残して、漂流者や遭難者が使えるようにしておいたんだ。太陽光発電と融合炉が生きていれば、システムは半永久的に使えるからな」

「だから暫くの間使った形跡が無かったわけだ」

アポリは一応納得してみせた。

「まさか自分がその恩恵を受ける羽目になるとは思わなかったけどな」

シンジは苦笑いした。

アポリも合わせて苦笑いした。

このシンジと名乗る若者は、どこか他の連邦のパイロットとは違う雰囲気を出している。

組織上敵という存在だが、個人的にはどうしても敵とは思えなかった。

 

【第九話】敵では無い敵 へ続く

2021年10月23日12時配信予定