機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

一年戦争後の宇宙世紀の世界観を独自の目線で表現しています。

【第十二話】コロニー強奪

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機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

【第十二話】コロニー強奪

 

戦争が終結して半年、ようやく連邦政府が復興に向けて動き出した。
コロニー公社と共に、各サイドの現状の被害状況を調査してサイドの再生を図る計画を打ち出したのだ。
これが後の「コロニー再生計画」に繋がる。
このサイドの調査が始まるという情報を得ると、5thルナは慌ただしくなった。もっと先に実行する予定の作戦を前倒しすることが必要になったためだ。
現在はサイド2が調査対象のため、調査対象がサイド5になる前に作戦を実行しなければならない。
そのため、アズウェル周辺のミノフスキー濃度を濃くし、アルバトロス隊とパナディソン隊を誘い込む作戦も急遽行うことになった。
予定通り誘いに乗ってくれたため、5thルナからナイジェル隊がサイド5に向けて出発した。
サイド5の駐屯軍の戦力は把握している。ナイジェル隊の隊長ナイジェル・ムーア大尉はブリッジで腕を組んで仁王立ちしてサイド5宙域を睨みつけていた。
「大尉、まもなくサイド5の領空圏内に入ります。」
オペレーターがナイジェルに報告すると、
「奴らの動きは?」
「まだありません。」
「よし、奴らに動きがあれば我々も第一戦闘配置だ。モビルスーツの出撃準備!」
「は!」
「私もモビルスーツデッキに降りる。」
ザンジバル級のゴースト・ウルフは二隻のムサイ級を引き連れ、まもなくサイド5の領空に差し掛かろうとしていた。
ナイジェルはモビルスーツデッキに入ったが、パイロットスーツを着ていない。パイロットスーツを着ないのが彼のポリシーだ。
搭乗機であるリックドムⅡのコックピットに乗り込むと、サイド5から管制官の無線が入ってきた。
「接近するザンジバル級並びに随伴艦に告げる、貴艦はサイド5の領空に接近している、直ちに航路を変更せよ。」
もちろん反応はしないし減速もしない。
そしてサイド5の領空まで距離1000のところで、白い線が放出された。モビルスーツだ。
予定通りだった。
「こちらも出るぞ!」
ナイジェルのリックドムⅡは真っ先にメインハッチへと向かった。
ザンジバルのカタパルトは連邦と違って床面にレールを敷く方式ではなく、側面にレールが取り付けられていて、片足をかけて片手でレバーを握って射出する簡易的なものだ。
しかしドムは足のサイズが規格より大きいためカタパルトでは射出できない。
メインハッチからそのままバーニア出力で飛び出す。
常に全力のナイジェルはいきなり全開だ。トップスピードで敵モビルスーツ隊に突っ込んで行く。
続いてザクも5機が発進した。
アルバトロス隊とペネディソン隊がテロ対策を行うようになってからは、サイドに対するテロが減少していたため、連邦も駐屯軍の数を減らしていた事も幸いした。
サイド5の守りはモビルスーツ六機(しかも初期型のジム)とサラミス二隻のみだ。
全滅させるのに10分と掛からなかった。
予定通り無人の廃棄されたコロニーに接触する。
あとはコロニーの管制室で推進システムを作動させれば、ラグランジュの均衡から外れる。
目標を地球に合わせると、コロニーは地球に向けて進行を始めた。地球まで約32時間、実質は阻止限界点までの28時間が勝負だ。
連邦がうまく誘いに乗ってくれたおかげで、アルバトロス隊は丁度阻止限界点に差し掛かるくらいに接触するはずだ。
他の方面からの連邦の艦隊も今から出撃しても阻止限界点まで間に合わない。
「これでわれらの勝利だ!5thのウィリアム大佐にも報告しろ!」
ナイジェルは勝利を確信して、高らかに声を上げた。
 
シンジの作戦中止の要請により、作戦は一旦中止され、アルバトロス隊はルナツーへの進路を取り、ペネディソン隊もコンペイトウへの進路を取っていた。
シンジがこの件についてホーネットのブリッジにいるシナプス艦長とモニター通話で報告をしている最中だった。
ホーネットのオペレーターが
「艦長、ルナツーから緊急暗号通信です」
とカマネラのメンバーにも聞こえる声で叫んだ。
「何だ?」
「「サイド5の一基がジオン残党により奪取されて、すでにラグランジュの軌道から外れている。このまま進むと間違いなく地球の引力に引かれる。アルバトロス隊とペネディソン隊は直ちにコロニー落下阻止に向かわれよ」です」
「コロニーが奪取されただと!?」
シナプス艦長は目を見開いて叫んだ。
ブリーフィングルームにいる全員も言葉を失った。
「我々のコロニーまでの接触予定コースは?」
シナプス艦長がオペレーターの方を向いて聞くと、キーボードを叩く音が聞こえ、カマネラのモニターにも予定コースと時間が表示された。
「ここからだと、地球を掠めるようにサイド5方面に向かうルートになります。コロニーの移動速度を計算して…接触予定時間は約12時間後です。阻止限界点をここだと仮定すると、接触から阻止限界点までおよそ5時間弱といったところです」
5時間か…
シンジは頭の中で呟いた。
「またジオンがコロニー落としをするのですか??」
レインが立ち上がって叫んだ。
「少なくともコロニーは地球に向かって進んでいる。ルナツーのミック指令よりコロニー落下阻止の任務が与えられた。我々は予定を変更して地球を掠めるルートで阻止限界点を超えてコロニーの正面から迎え撃って落下を阻止する。全艦進路変更!最大船速で移動するコロニーに向かう!ペネディソン隊にも再合流するよう打電しろ!」
シナプス艦長の号令で艦が大きく揺れた。
進路がルナツー方面から地球方面に変わったようだ。
ブリッジの慌ただしさも伝わってくる。
「ペネディソン隊と合流したらホーネットで作戦会議を行う。アルバトロス隊の小隊長はホーネットのブリーフィングルームに集合だ」
シナプス艦長からの指示で
「了解しました」
とアレン隊長とジャック大尉、ミカ中尉が立ち上がって敬礼すると、シナプス艦長も敬礼をしてモニターが消えた。
「我々はホーネットに行く。その他の乗組員は今から半舷休息だ。休めるうちに休んでおけ」
「は!」
シンジ達カマネラに残るクルーも立ち上がってアレンに敬礼した。
アレン達も敬礼で返して、急いでブリーフィングルームを出て行った。
「ところで、阻止限界点って何ですか?」
新入りのローラン・シーム曹長が誰にでもなく聞いた。
「コロニーの落下を防ぐことができる限界点よ。開戦当初のコロニー落としも、阻止限界点を超えたから、ジャブローへの軌道を変えるのと、少しでも被害を分散しようと破壊を試みたの。おかげで三つにちぎれてしまって、返って被害が悪化した感じもあるけどね」
レイン少尉が過去の事例を踏まえて答えた。
「それにしてもさぁ、シンジ」
今度はジョージが話しかけてきた。
「やっぱりこうなるってわかってたのか?」
「まさか。でも少なくともここじゃないとは思ったさ。自分でもよくわからないけど、とにかく焦る気持ちが強かったんだ。」
他のみんなもシンジの言動に注目していた。
「少尉殿の感じ方、本物のニュータイプだと思います。」
ローランは至って真顔だった。
「シンジのニュータイプ能力で、コロニー落下も阻止しないとね!」
ジョージがシンジの首を腕で抱きかかえながら笑って言うと、
「勘弁してくれよ~」
とシンジは照れを隠しているが、周りの皆からの期待もひしひしと感じていたため、「勘弁してくれよ~」はまさに心底の叫びだった。
 
その頃ナイジェル隊もアルバトロス隊がこちらに向かっているという情報を5thルナから得ていた。
「アズウェルにいるはずの捜索隊が既にこちらに向かっているだと!?」
さすがのナイジェルもこの事態には少し動揺したようだ。
「どうやら連邦にもかなり感のいい人間がいるみたいだな。ニュータイプとでも言うのか!?」
本来ならちょうど阻止限界点に差し掛かったくらいに接触するはずが、こんなに早くこちらに向かってくるとは。
このままでは阻止限界点のかなり手前で補足されてしまう。
コロニー自体もジャブローへの最終調整があるため、これ以上速度を上げることはできない。
逆にあちらは全速でこちらに向かってきている。
だが、例え相手がニュータイプだろうと迎え撃つしかない。何が何でも阻止限界点を超えるまで持ちこたえるのだ。
まもなく5thルナからの艦隊と接触する。指揮官のウィリアムも同行してくる。
これだけの戦力があれば持ちこたえれるはずだ。
ナイジェルは並々ならぬ闘志に満ちていた。
 
まもなく日付は7月4日に変わろうとしていた。
阻止限界点まであと8時間、しかしアルバトロス隊とペネディソン隊はあと3時間足らずでコロニーを補足するポイントまで近づいている。
また、地球周回軌道からは地球機動艦隊が、そして月のフォンブラウンルナツー、コンペイトウからも艦隊が出撃され、コロニーを補足しようとしている。ナイジェル達が予想しているよりも動きが速い。
ナイジェルやウィリアムの想いとは裏腹に、連邦の圧倒的な勢力によってコロニーは囲まれたようとしていた。

【第十三話】出撃前 に続く
2021年11月20日12時更新予定

※お詫び
【第十二回】フェイクで予告した更新時間通りに更新できなかったこと、お詫び申し上げます。