機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

一年戦争後の宇宙世紀の世界観を独自の目線で表現しています。

【第十三話】出撃前

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機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~

【第十三話】出撃前

 

スペースコロニーは人類が宇宙に住むために作られた人工の大地である。

直径6キロ、全長30キロ程の円筒の内壁に生活空間を作り、地球と同等の環境を作り出している。

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スペースコロニー 出展:ameba

宇宙世紀0079年1月10日、ジオン公国軍はコロニー一基を重力爆弾として地球に落下させる「ブリティッシュ作戦」を実行した。

地球連邦軍の拠点「ジャブロー」を狙った作戦だったが、連邦軍の必死の抵抗によりコロニーは大気圏突入時に3つに崩壊してしまい、ジャブローへは落下させることができなかった。

緒戦で優勢だったジオンだが、この失敗により最終的に敗戦したと言える。

ブリティッシュ作戦直後に第二次ブリティッシュ作戦も計画されたが、これも未然に連邦に防がれている。

戦後、5thルナに身を潜めていたジオン残党の一派であるウィリアム・ビッチは第三次ブリティッシュ作戦を極秘に発案、実行に移すための策略を練っていたが、コロニーの状況調査が開始されてしまったため、急きょ実行に移すこととなってしまった。

そのため当初計画していた半分程度の戦力しか集めることができなかった。

巡洋艦や補給艦、輸送艦を含めた総数20隻にモビルスーツは40機ほど。

後のデラーズ・フリートよりも遥かに少ない軍勢だ。

それでもこの作戦は何としても成功させなければならない。そんな思いで地球に向かうコロニーと共に前進していた。

阻止限界点の手前5万キロのあたりに差し掛かったところで、ブリッジの観測係がある影に気付いた。

「こ、これは!?」

明らかに不測の事態が起きたことを表した声にウィリアムが、

「どうしたか?」

と観測係に駆け寄った。

「前方より連邦の艦隊を確認しました。距離5000」

「前から連邦の艦隊だと!?間違いないのか?」

「モニターに出します」

ブリッジの大型モニターに連邦のマゼラン級一隻、サラミス級四隻がはっきり映し出された。

他のブリッジクルーもこの映像を見てざわつき始めた。

「何でこんなに早いんだ?」「まさか連邦がこんなに早く動くなんて」

なんて声も漏れ聞こえてきた。

しかしこれは現実として起こっており、対応しなければならない。

しかもこのルートだと、第二防衛ラインからずれて直接最終防衛ラインに向かう様にも取れる。

ウィリアムは「まずいな」と顎髭を触りながら小声でボソッと言うと、オペレーターに、

「やむを得ん、第二防衛ラインの半数を迎撃に回せ。例えこれが陽動であったとしても第二防衛ラインを死守するんだ」

「は!」

第二防衛ラインは8隻の戦艦と15機のモビルスーツが充られていたが、半数はそこから離れる事になった。

ウィリアムの予想は悪い方に当たってしまった。

ジオンの襲撃を受けた際、サイド5の駐留軍は即座に本部に連絡し、コロニーが移動し始める頃には、地球機動艦隊の一部をコロニー落下軌道に向かわせていた。

そのため、阻止限界点の手前でコロニーを補足する事ができたのだ。

地球軌道艦隊は第二防衛ラインの戦力を分断させるための陽動をとっていた。

地球軌道艦隊からの増援の連絡があった時は、「貴様らでコロニーを奪取しろ!」的な言いっぷりだったが、そんな姿勢であることは分かっていた。

おそらく全てが片付いた頃合いを見計らって本体が到着し、手柄を全て持っていく算段なのだろう。

それでも戦力を分断してくれるだけでこちらとしては大助かりだ。

ジオンの動きをアルバトロス隊のシナプス大佐も確認していた。

「どうやら敵は我々の陽動に乗ったみたいだな。よし、第一戦闘配備!距離5000でペネディソン隊出撃。第二防衛ラインを突破する!」

アルバトロス隊とペネディソン隊の共同部隊は、コロニー落下阻止作戦として段階的に攻め込む作戦を取っていた。

まず、地球軌道艦隊の陽動により第二防衛ラインを手薄にし、ペネディソン隊2小隊で突破、その後入れ替わりでアルバトロス隊が3小隊で第一防衛ラインの戦力を削ぎ、補給を終えたペネディソン隊で第一防衛ラインを突破。その後コロニーに取り付き軌道を変える、と云うのが今回の作戦だ。

第一戦闘配備の合図はもちろんモビルスーツデッキにも響いている。

シンジ達パイロットは自機のコックピットで待機していた。

カマネラのメインハッチが閉じているため外の様子は直視できないが、ブリッジからの映像をコックピットのメインモニターに映して、各艦隊の動きをシンジは確認していた。

程なくしてコロニーの北側で戦闘らしき光が見え始めた。

地球の自転軸に対して、北極側が北、南極側が南と定められている。

上も下も無い宇宙だが、宇宙船やモビルスーツ、民間機など全ては「北が上」になるよう定められている。全ての戦艦やモビルスーツの頭部が同じ方向に向いているのはそのためだ。

もちろん戦闘など動き回る必要がある場合は自由な向きで動けばいいが、列を成す場合などは必ず「北が上」となるよう設定されている。

宇宙だからと全てが自由という訳ではない。

「始まったみたいだね」

ジョージが無線で話しかけてきた。

「ああ、サポートは頼んだぞ、ジョージ」

「任せとけって」

元はアズウェル宙域の捜索が目的だったのが急遽コロニー落下阻止作戦となってしまったが、今回隊は試験用に新型のライフルを携帯していた。

ショートバレルの本体をベースに、砲身を追加してミドルバレル、ロングバレルと、用途に応じて仕様を変更できる試作ライフルだ。

しかもライフルとビームマシンガンに切り替える事もでき、試験部隊ならではの装備と言える。

シンジは二連ビームキャノンからこのライフルに装備を変更していた。装備したのは接近戦を目的としたショートバレルタイプだ。また、二連ビームキャノンを外したことで左腕に装備されているボックスタイプビームサーベルを右腕にも装備した。

オールラウンダーのストームブリンガーだが、今回は接近戦に特化した装備となっている。

この装備は本来の目的であったアズウェル宙域捜索作戦から既に装備していた。

今回新たな作戦になった事で装備の変更を考えたが、やはりこのままで行くことにした。

同じく拠点攻撃になるわけであるが、艦隊戦になることを考えると、早いうちにモビルスーツを沈黙させることで作戦を有利に進めることができるためだ。白兵戦はシンジの得意とするところでもある。

そのサポートに、ロングバレルのライフルを装備したジョージが付いてくれるわけだ。

これでシンジも思い切り戦える。

戦闘の光はそれほど大きな広がりを見せていない。

それは、この戦闘はお互い相手を殲滅するための戦闘ではないためだ。

ジオンはあくまでも防御のための戦闘で、連邦も相手を引き付けるための戦闘としているため、半膠着状態に近い。

しかしジオンは、連邦に背を向けたら当然連邦に攻め込まれてくるため、うかつに動けない。分はジオンの方が悪いと言える。

シンジもコロニーまでの距離を確認していた。

まもなく5000の地点に到達する。

ペネディソン隊の所有するコロンブス級改「ミッドウェイ」の艦内モニターを映すと、モビルスーツの出撃準備が慌ただしく行われていた。

ペネディソン隊指揮官マーク・ファン大佐の号令が、カマネラ全体にも響いた。

「30秒後にA小隊、C小隊出撃!その後2分間牽制の砲撃を行う!」

「アルバトロス隊はこのまま待機、ペネディソン隊と同時に牽制の砲撃を開始する!」

シナプス大佐が続いた。

「アルバトロス隊各機へ」

アレン隊長だ。カメラは無く音声のみの通信だ。

「今回の作戦は、隊が結成されて最初の大規模な戦闘となるだろう。ジオンも全力で掛かってくるはずだ。また時間的にも第2波は無い。必ずこの戦闘で決めるんだ。危険な任務になることは間違いないが、必ず全員生還するんだ。隊全員で勝利を分かち合おう。以上だ」

モニターにはペネディソン隊の出撃の様子が映し出されていた。

「仲間を死なせなくないなら、まずは隊長のあんたが率先して示さなくちゃな」

シンジは嫌味のつもりは無かったが、ぼそっと口に出した。無線は繋がっていないから誰にも聞こえていないはずだ。

「シンジ少尉」

アレンからの通信にシンジはドキッとした。

「は!」

シンジは冷静を装って返事をした。

「君の機体はガンダムだが、接近戦となると損傷リスクも高くなる、気を付けるんだぞ」

「はい、心得ております」

どうやらさっきの独り言が聞こえたらの通信ではなかったようだ。

シンジは返事と同時に軽く舌を出した。

 

【第十四話】激突 に続く

2021年11月27日12時更新予定