【第十六話】二人の未来
機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第十六話】二人の未来
第三次ブリティッシュ作戦と銘打ったこの作戦は、ペネディソン隊の最終防衛ライン突破をもって終結となった。
上陸部隊によってコロニーの軌道変更に成功、一度地球周回軌道に乗せ、重力カタパルトによりサイド5に戻す。
時を同じくして地球軌道艦隊の本体が到着し、ルナツーとコンペイトウや、月のファンブラウンからの増援も到着した。
旗艦の白旗によりあっけない幕切れとなった。
カマネラのモビルスーツデッキでは、アルバトロス隊員全員、モニターで艦隊の様子を見ていた。
ジオンも抵抗せず指示に従っている様子がうかがえる。
すると、アレンの無線が鳴った。
「アレンだ」
「アレン大尉、ホーネットのシナプス大佐から通信です。そちらのモニターに回します」
ブリッジのオペレーターがそう言うと、モニターがホーネットのブリッジのキャプテンシートに座っているシナプスを映し出した。
全員敬礼する。
シナプスも敬礼で返したあと、
「ちょうど全員揃っているな。今回の作戦ご苦労だったな。間も無く本部から帰還の指示が来る。我々はルナツーからの増援と共にルナツーに帰港する事になるだろう。以後の処理は地球軌道艦隊がしてくれる。狭い館内ではあるが、ルナツーに帰港するまでやっぱり休んでくれ。以上だ」
今度はシナプスが敬礼したため、全員が敬礼で返した。
「聞いての通りだ。我々もこのまま解散だ。各自でゆっくりしてくれ」
アレンが最後に締めたため、シンジは一旦自室に戻ることにした。
「後で食堂行こうよ」
ジョージが誘ってきたため、
「分かった、後で行くよ」
手を上げて答えた。
ノーマルスーツから制服に着替えたシンジは、サラの顔を見たかったので医務室に行ったが、サラは食堂に行っているという事だったため、とりあえず一旦部屋に戻った。
思えば作戦が始まってからシャワーを浴びていなかった。
ルーティンとして、戦闘から帰った後は、まずシャワーを浴びる事を決めている。
ある意味サラがいなかったは良かったのかもしれない。
一旦パソコンを立ち上げて、メールの確認をしてから、今日の事件の報道が出ていないかチェックしてみたが、まだ出ていない様だ。
報道規制がかかっているのか、あるいは情報操作するための準備中なのか。
何件か大切そうなメールに目を通し終えると、すぐパソコンをシャットダウンした。
シャワーの前に水分補給と思い、キッチンの冷蔵庫から500mlの水のボトルを手に取った。
自室といっても無重量だ。蓋を開けると先端にストローが付いている。一気に半分くらい飲んだところで浴室に入った。
15分ほどでシャワーを浴び終える。
シャワーに行く前にボトルを浮かせておき、シャワーから戻ったあとにどれだけ移動しているのかを確認する、というよく分からなことをたまにしている。
動く量が少ないと何とも気持ちがいいが、ひどい時は壁まで達していて、その時はテンションも低くなる。
今日はほとんど動いていなかった。何とも良い気分で残りを飲み干した。
髪をドライヤーでセットし、髭も剃った。
制服を着て鏡の前でチェック、襟を正す。
準備万端だ。
シンジは食堂に向かった。
食堂ではいつもは見られない光景が広がっていた。
それはアルバトロス隊員が、シンジが来た事で全員揃っていること。そして、ジョージが食堂の外まで聞こえる声で饒舌に先ほどの戦闘の武勇伝を語っていた。普段ならアリスやアレンに制されるところだが、今日ばかりはお許しを得たのだろう。
お陰でシンジが食堂に入っても誰も気付かない。シンジはサラに気付いたが、サラは向かいに座っているレインと話をしていてまだ気づいていない。
とりあえずカウンターに向かったところで、
「シンジー!!」
まさか一番気付かないと思っていたジョージが最初にシンジに気付いた。
シンジは、勘弁してくれよ、という顔をしてジョージを見た後サラの方を見ると、サラもこちらを見て、笑顔で手を振ったので、シンジも軽く手を上げて応えた。
またジョージの武勇伝が再会したため、今のうちにメニューを選んで、席が空いているミカの前に向かった。その横にはアレンとミックが座っている。
「失礼します」
上官であるアレンとミカの方を向いて挨拶しながら座った。
ミックが「お疲れ」と軽く挨拶してきたのでシンジも「お疲れ様です」と返した。
「随分と騒がしいんですね」
カレーライスを頬張りながら、三人それぞれの目を見て話しかけた。
「今日くらいはな。ジョージもモビルスーツ二機を撃墜している。たまにはいいんじゃないか」
アレンの表情が珍しく緩んでいる。
「さっきの戦闘、機体の損傷が一番大きかったのがお前のストームブリンガーだったみたいだな。あのリックドム、そんなに凄かったのか?」
ミカは改めてシンジに聞いた。
「とにかく気迫が凄かったです。ほぼ出力全開のままでしたから、躊躇したら押し込まれそうでした。パイロットとしての腕も高いですね。まだこんな凄腕パイロットがいるなんて、やっぱりジオンは凄いです」
「エースパイロットと呼ばれた者の多くは一年戦争で戦死したと言われているけど、まだまだ生き残りも多いんだろうな。真紅の稲妻、ジオンの白狼、ソロモンの悪魔なんかも行方不明なんだろう?いつかそいつらとも相対する時が来るのかもしれないな」
ミカの口調はシンジに改めて諭すようだった。
「その時が来てもいいように、しっかりと備えておかないといけないですね」
シンジは一応カレーのスプーンを置いて、ミカに答えた。
「よろしく頼むぞ、ニュータイプ」
ミックがウインクした。
「やめてくださいよぉ」
ミカとミックはシンジの返しに笑いで答え、アレンも少し笑顔を見せた。
それにしてもジョージの独演会はいつ終わるんだ?
7月5日
アルバトロス隊がルナツーに帰港すると、ルナツーは歓迎ムード一色だった。
公にはなっていないとは言え、コロニー落としを阻止したのだ。
ルナツー指令のリックも彼らを讃え、何と特別ボーナスの支給と一週間の休暇まで与える事にした。
7月7日21時
民間エリアの自宅のリビングの大型モニターの前に置いてあるソファーに座って、シンジはモニターを見つめていた。
ようやく先日のコロニー移動について、連邦政府が公式会見を開くのだ。
それは民放局からSNSまでほぼ全てのメディアを通じて、同時に公開される。
公式発表はこうだった。
「先日のサイド5のコロニー「アイランド S」の移動は、偶発的な事故により発生したもので、運悪く地球落下軌道に乗ってしまったが、地球軌道艦隊の懸命な処置によって、コロニーは無事サイド5に戻された」
また、付近で戦闘らしき光の目撃情報が複数寄せられている件については、
「そんな事実は一切無い」
とキッパリ否定している。
「今回の事故については大変遺憾に思う。コロニー公社には事故原因の追求と再発防止策を検討させている。もちろん我々も全面的な協力を惜しまない。我々の地球は…」
モニターの中の広報官は、目を尖らせ、何とも険しい表情をしている。
「こんな事、一体どれだけの人が信じるのかしらね」
シャワーを浴び終わったサラが、バスタオルを体に巻いて、乾かしていない頭にタオルを巻いて、シンジの後ろから話しかけた。
「信じる信じないじゃないさ。『真実』を葬り去り、自分達で作った『事実』で上書きして、それを歴史として語り継ぐ。これで連邦は権益を守っているのさ」
「納得いかないわね」
シンジの左隣に座ったサラは、頭に巻いたタオルを解いてまだ湿っている髪を拭きながら言った。
「連邦に正義なんて無い。こんな事を続けていると、いつか綻びができて、それが連邦を蝕んでくるさ」
「また戦争になるの?」
「それは分からないよ。でもこの連邦の体制に誰も納得してないし、反感も持つ人も多いと思うよ」
「あ〜あ、私たちの未来はどうなるのかしらね。シンジはニュータイプなんでしょ?もうどんな未来が来るか分かっているんじゃないの?」
「馬鹿言うなよ。俺はニュータイプでもなんでも無いし、さっき分からないって言っただろ」
拭いている髪からはとても良いフレグランスが漂ってくる。イライラも収まりそうだ。
「私たちの子供には、戦争の無い未来になってほしいね」
「宇宙世紀100年まであと20年だしな。こんな時代はそれまでに終わらせて、100年代は平和な世界になっててほしいもんだな…って、子供!?、できたのか、子供!?」
シンジが驚いたのは「できてしまった」では無い、別の理由だった。
「私には子供はできないよ…」
急にサラのトーンが下がった。
サラは10代の時に数回堕胎手術を経験している。医者からは「これが最後」とまで言われた。もう子供が出来ない体になっていても不思議では無い。
もちろんシンジもその事は知っている。
「二人にとって望ましい未来は必ず来るよ」
シンジのポジティブな言葉はサラのトーンを押し上げる。そしてついこんな事を言ってしまう。
「これからもシンジはたくさんの人と出会うでしょ?いつか私のことも忘れちゃうんだよね」
100%「NO」という答えが来ると分かっていてもこんな質問をしてしまう。
例え宇宙世紀になっても、女心と、その心が男性に求めるものは変わらない。
「もし忘れたら…」
「忘れたら?」
サラは下からシンジを見上げるように聞き返した。
「忘れたら、もう一度トライするよ」
サラはシンジに寄り添って、左肩に頭を乗せて言った。
「うん…待ってるね」
シンジもサラの左肩を抱き寄せた。
「本当はシンジの子供ほしいんだよ...」
サラは声にはせず、口だけを動かした。
シンジには決して聞かれたくないが、想いは届けたかった。
シンジの側にいれること、そして愛する人の子を宿さないかもしれない気持ちが重なり、一筋の涙を流させた。
こんな優しい時間が永遠に続く、二人はそう思える時間を過ごしていた。
しかし現実は二人の想いとは裏腹に動いてしまう。
それこそが現実なのだろう。
【第十七話】 辞令 に続く。
2021年12月18日12時更新予定
【注記】この物語はフィクションであり非公式です。また、公式には出てこない機体も登場したり、一部独自の設定があるなど、パラレルワールド的な物語である事をご了承ください。
【ちょっと休憩】Afterwar作成秘話③
「機動戦士ガンダムAfterwar〜戦後の戦士たち〜」を読んで頂きありがとうございます。
今回は主人公のシンジとヒロインのサラについて少しお話します。
自分がガンダムの物語を書くなら、主人公は絶対に日本人にすると決めていました。
名前も当初は自分の名前にしようと思っていましたが、やはりそれはまずいと思い、ちょっと古っぽいですが日本人らしい「シンジ」としました。
決して某人気アニメのパクリではありません(笑)
サラについてはいろいろ迷いましたが、結局(自分が)イメージしやすい日本人としました。
ガンダムの主人公といえば、「十代の少年がうっかりガンダムに乗ってしまったことで戦いに巻き込まれ成長の過程でニュータイプに目覚める」といったところでしょうか。
自分のAfterwarはいわゆる「大人のガンダム」を意識しています。
そのため主人公は成人男性で、正規の軍人で、ニュータイプと思われるセンスを持っています。
このタイプの主人公って実は「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」のアムロか、「機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ」のハサウェイくらいです。(ハサウェイはテロリストですが...)
またヒロインについても、「十代の処女の少女」というのがガンダムヒロインの鉄板ですが、サラは成人女性で主人公と肉体関係を持った恋人同士という、二十代のカップルの一般的な姿ではないかなと思いこの設定にしました。
サラは十代の頃に体を売って生活していて、堕胎手術も数回経験しているというちょっとダークなバックボーンを持たせました。
このサラの過去があることで、サラの人間としての成長とシンジとの絆をより強くして、お互いのニュータイプとしての感性を強めることでしょう。
このAfterwarは戦争を描いている訳ではありません。宇宙世紀の日常を表現することも一つの目的としています。
宇宙に暮らすことの楽しさ、大変さ、西暦と人々の意識の違いを表現することを心がけています。
宇宙世紀ガンダムである以上やはり「ニュータイプ」というワードは外せません。
自分も人類がニュータイプに変革することを望んでいる一人です。
自分の生み出したキャラが、戦いと人々との繋がりを経てニュータイプの感性を高めていってくれることを望んでいます。
明日配信予定の第十六話「二人の未来」は、シンジとサラが望む未来についてのお話です。
しかしながらこの二人にはこの後ちょっとした試練が待っています。
でもニュータイプの感性を持ったこの二人なら必ず乗り越えてくれることだと筆者自分も信じています。
これからも「機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~をよろしくお願いします。
【第十五話】一騎打ち
機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第十五話】一騎打ち
「ガンダム!貴様の相手は俺だ!!」
ストームブリンガーの目の前を通り過ぎると、すぐさま急制動、体勢と砲身をストームブリンガーに向けたが、チャージ完了まであと3秒の表示が出ていてロックオンできない。
「チッ」
舌を打ったナイジェルは一旦構えを解いたが、今度はストームブリンガーのライフルがこちらを向いている。
ロックオンアラートが鳴らないため単なる威嚇だと思ったが、何と発砲してきた。
「ロックオンしないで発砲するのか!?それでこそガンダムだ!」
直撃を避けるため回避行動を取ろうとすると、ストームブリンガーは今度は左手に持ったビームサーベルで斬りつけてきた。
「そう来ると思ったぞ!」
動きを読んでいたナイジェルはリックドムの胸部拡散ビーム砲を放つと、一瞬ストームブリンガーの動きが鈍った。
モビルスーツ相手ではダメージを与えることは皆無である胸部拡散ビーム砲だが、目眩しとして大変な効果を出す事がある。
かつて黒い三連星もガンダム相手に胸部拡散ビーム砲を目眩しとして使っている。
僅かな隙も逃さないナイジェルは、ビームバズーカの銃口をストームブリンガーの喉元に押し付けた。
「終わりだ!!」
勝利を確信したナイジェルは右手の操縦桿のトリガースイッチを押そうとしたが、その直前、機体に激しい衝撃が起きた。
ストームブリンガーは体を後ろに反らし、バク転の要領でそのまま左足でビームバズーカを蹴り上げたのだ。
その直後、ビームが発射され、ナイジェルのリックドムは更に体勢を崩した。
そのまま一回転し、再び体勢をリックドムの正面に向けると、この隙にもう一度左手に持ったビームサーベルで斬りつけた。
ナイジェルは考える間も無くビームバズーカでビームサーベルを防いだ。頑丈なビームバズーカは簡単に真っ二つにならず、その間にナイジェルは体勢を立て直す事ができた。
ビームバズーカが真っ二つになると、手元に残った本体側をストームブリンガーに投げつけ、一気に距離を取り、すかさず腰にマウントしていたマシンガンを右手で掴んで、そのままストームブリンガーに撃ちつけた。
シンジは咄嗟にコックピットを左手で庇う動作を取ってしまった。
銃弾が左手の甲に直撃し、ビームサーベルが飛ばされてしまった。ボックスタイプビームサーベルもダメージを受けたようだ。だが機体本体への大きなダメージは無い。
「クソ!」
反撃しようと右手のビームライフルを構えると、リックドムは右手に持ち替えたヒートサーベルで斬りつけてきて、ビームライフルを真っ二つにされてしまった。
残った部分を投げ捨てると、バックパックにマウントされているビームサーベルの柄を抜き取り、ビームを形成し、リックドムに斬りつけた。
ヒートサーベルはビームサーベルに比べ強度が劣る事はナイジェルも承知している。
それでも持ち前の気迫と全パワーを使って押し込む戦い方は、ストームブリンガーを押さえつけていた。
「何でヒートサーベルでここまでできるんだ!?」
シンジ自身もリックドムの気迫に圧倒されかかっていた。
でも機体性能はこちらの方が上だ。こんなところで墜される訳にはいかない。
サラの顔が脳裏をよぎった。
「こんな処で!!」
右足のスロットルを踏み込み、右手の操縦桿を押し込むと一気に押し返した。
「流石だな、ガンダム!」
ナイジェルも同様にスロットル全開で押し返そうとするが、やはりパワーでは勝てない。
一度受け流し、何度か剣を交えたが、ヒートサーベルに限界のアラートが鳴った。
最後の力を振り絞ってストームブリンガーを押さえ込むと、別の何かに反応したストームブリンガーは体勢を崩してしまった。
「しまった!」
「もらった!!」
ヒートサーベルを両手で持ち、一気に突き刺そうとしたが、それを被弾した左腕で掴むように受け止めた。
「何だと!?」
「左腕はくれてやる!」
一気に形勢逆転。
右手のビームサーベルのビームを格納し、同時にボックスタイプビームサーベルを半分の長さで形成すると、完全に動きを封じ込められたリックドムの喉元(ドムは頭部と胴体が一体のため、胸部の上の部分)を突き刺した。
「うぉぉ!!」
ナイジェルは叫弾すると、ドムは完全に機能を停止し、生命維持装置と一部のモニターのみが点いた状態になった。
シンジもリックドムのモノアイが消滅したのを確認し、サーベルを引き抜いた。
何を操作しても反応が無い。
「コアだけを潰したのか??」
僅かに映るモニターに映し出されるストームブリンガーは、こちらに再度攻撃を仕掛ける素振りを見せない。
「ガンダムのパイロット、聞こえるか!!何故とどめを刺さない!!?」
ナイジェルはシートから立ち上がって大声で叫ぶと、接触回線でそのままのボリュームでストームブリンガーのコックピットに響いた。
あまりの声の大きさに、シンジは意味も無くノーマルスーツのバイザーを開けてしまった。
「俺にはアンタを殺す理由はないよ」
この一言で終わりだ。
「うぅ…」
ナイジェルは戦士としても人間としても負けたと思い、全身の力が抜けてシートに座り込んだ。
なんとなくリックドムのパイロットの心中が分かったシンジは、少し表情を緩めた。
落ち着いたところで状況を確認する。
索敵チェック。
味方機の撃墜0。
敵機は半数以上が消失。
また、別方向からの味方機の接近も確認できる。
「どうやら俺たちの勝みたいだな。あとはコロニーの軌道変更か」
シンジたちの任務はあくまでも敵防衛ラインの排除だ。
それに成功すれば、コロニーの軌道変更はペネディソン隊の特別部隊が実行する。
阻止限界点まで2時間強。ギリギリとまではいかないが、なんとか間に合ったといったところだ。
「ピピピピ」
味方機が自機をキャッチした信号が鳴った。
「シンジ、大丈夫か?」
かすれた無線だがジョージだ。
信号の方を確認すると、ジョージとミカのジムが近づいてきたのが確認できた。
「大丈夫か?」
今度は接触回線でミカが聞いた。
「左腕をやられましたが、大丈夫です」
「このリックドムにやられたのか?」
「はい」
「パイロットは?」
「中でおとなしくしているはずです」
「そうか」
よく見ると全体にダメージを負っているストームブリンガーを見てジョージが
「このドムのパイロット、かなりの凄腕だったのか?」
「ああ、ちょっと焦ったよ。こっちの方が性能は上なのに、なんか、気迫が凄かったんだ」
「ジオンのパイロットってそうだもんね」
「本当だよ。そっちはどうなんだ?」
シンジはジョージに聞いたが、ミカが答えた。
「もうすぐ補給を終えたペネディソン隊と地球軌道艦隊が合流する。それで最終防衛ラインは突破だ、戦艦もムサイ5隻を沈めた。後は親玉が乗っているグワジンとパプワ級だけだ。我々はこのまま帰還しよう。アレン隊長とジャック隊長の隊もまもなく帰還する」
「了解です」
シンジはホーネットの位置をトレースした。
「このドムは俺が持つよ」
ジョージは両腕でドムを掴んで、ミカの後方に付いて、カマネラに向かった。
【第十六話】二人の未来 に続く
2021年12月11日12時更新予定
【注記】この物語はフィクションであり非公式です。また、公式には出てこない機体も登場したり、一部独自の設定があるなど、パラレルワールド的な物語である事をご了承ください。
【第十四話】激突
機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第十四話】激突
地球に向かうコロニーの落下阻止限界点まで3時間余り。
ペネディソン隊が第2防衛ラインを突破した知らせが入った。
出撃してから30分程での突破だ。
その報が入ると同時に艦隊は最大戦速でコロニーに向かった。
「ペネディソン隊は補給に帰還してください」
ミッドウェイのオペレータの声がカマネラにも響いた。
するとペネディソン隊の隊長「ショーン・モルツ」の声で
「我々はまだ余力がある、このまま地球軌道艦隊の増援に向かいたいがよろしいか?」
やや途切れながら通信が入ってきた。
ペネディソン隊指揮官マーク・ファン大佐は
「了解した。ミッドウェイもそちらに向かう、アルバトロス隊はそのままコロニーへ向かってくれ」
「よし!、我々はこのままコロニーへ向かう。対空監視は密に!敵の動きは?」
「ありません、最終防衛ライン上にモビルスーツが展開しています。数は22。その後方にクワジン級とムサイ級、パプア級が確認できます」
シナプス艦長とオペレータのやり取りもカマネラのモビルスーツデッキにも届いている。
「聞こえたな?数では負けているが、こちらの方が遥かに優勢だ。でも油断するなよ」
ミカ中尉の無線がシンジとジョージに入った。
「これだけの戦力でよくここまで来れたもんだな」
ミカが独り言のように発した。
「連邦の監視の甘さが露呈されていますね」
ジョージだ。
「だが軍はこれがジオン残党の仕業ということは公表しないだろうな」
「どうしてですか?」
「こんなにいとも簡単にコロニーを強奪されて地球落下軌道に乗せられるなんて、恥さらしもいいとこだろ。この作戦は俺たちが阻止できるのは間違いないだろうけど、その手柄も俺たちってことにはならないだろうな。俺たちの名前を出すとジオンが絡んでるって思われるからな」
「な~んか納得いかないですね~」
ミカとジョージのやり取りをシンジも聞いていた。
まもなくコロニーまで距離5000というところで、シナプス艦長の声が響いた。
「よし、アルバトロス隊出撃!」
「了解!」
アルバトロス隊の返事が響く。
そしてメインハッチが開かれた。
ようやく直接外を見ることができた。既に目の前にコロニーが迫っている。
左舷デッキのシンジたちC小隊も、ミカから発艦される。
数が多い右舷デッキでは既に発艦が始まっている。
ミカの発艦後、シンジもカタパルトに向かった。
ルーティン通りにカタパルトにストームブリンガーの両足をセット。発艦体勢に入った。
カウントダウンが始まる。
「シンジ・アラタ少尉、ストームブリンガー、行きます!」
カウント0で体全体にGがかかる。
発艦されるとミカのジムの右後方に付けた。
後から発艦されたジョージのジム・コマンドーはミカの左後方に付いた。
他の小隊も同じ陣形で敵陣に向かった。
艦隊の牽制射撃も始まり、足元をメガ粒子砲とミサイルが何本も敵艦隊へ放たれている。敵艦からの艦砲射撃もこちらに向かって放たれている。
アルバトロス隊は北へ向かって回避した。その方向にはモビルスーツ隊が待ち構えている。次はモビルスーツ戦だ。
既にメインモニターには20数機の敵モビルスーツ隊が左右に展開されている様子が映し出されている。その後方には戦艦が10隻ほど、そして巨大なコロニーが背景と化すくらい目の前に迫っていた。
敵モビルスーツも索敵をするまでもなく機種の特定ができた。
多くはザク系で、ドム系もちらほら見られたが、ゲルググは見えなかった。
「あの男、アポリはいないのか...」
シンジは、もしアポリがいたらこの戦いの意味を問いたかったが、
「やっぱりな...」
シンジは少しホッとした。
そしてミカの合図により、一気に敵陣に突入だ。
シンジは右足のスロットルを踏み込んだ。元々ジム・ドミナンスだったとは思えない加速力を発揮するストームブリンガーは、危うく隊長機のミカのジムを追い抜きそうになった。
少しスロットルを緩めると、ザク数機が目の前に迫っていた。
「ビッ、ビッ、ビッ、ビッ、ビッ」
ロックオンアラートがストームブリンガーのコックピットに響いた。敵機にロックされたのだ。同時にロックした敵機の詳細画像がメインモニターに映し出された。正面の2機のザクだ。
しかしシンジは回避行動を取らない。回避はストームブリンガーの回避プログラムによってオートでしてくれる。
ザクマシンガンが発射されたが回避プログラムが予測してかわしてくれる。
至近距離だったり、ロックされなければ作動しない等問題点はまだまだあるが、この距離からの射撃なら確実にかわせる。
ストームブリンガーは左手でバックパックにマウントされたビームサーベルの柄を握ったまま、左側のザクに突進した。
ストームブリンガーが射撃をかわしながら接近してくるため、ザクは射撃をやめ回避しようとしたが間に合わなかった。
「遅いよ」
左手で引き抜いたビームサーベルをそのまま振り下ろしながらサーベルを成型して、ザクを一刀両断。
両断したのはザクの胴体と下半身だ。ここなら誘爆しないしパイロットも死なない。
だがまだロックオンアラートが鳴り続いている。もう一機のザクがザクマシンガンをストームブリンガーに向けて斉射してくる。怯むことなくかわしていると、ザクを一本のビームが掠めた。ジョージの援護射撃だ。
一瞬怯んだザクに、シンジはすかさず体勢をザクに向けてロックオン、即座にライフルを発射し、ザクの首元を直撃し、頭部を吹き飛ばした。
モビルスーツの胴体首元に、システムを制御する処理装置、いわゆるコアが組み込まれている。
このコアを破壊すればモビルスーツは完全に沈黙することになる。
頭を吹き飛ばすだけではザクを無効化する事ができないため、首元を狙った射撃だ。
シンジはジョージにサンキューの合図を送ると同時に体勢を整えて、状況を見直した。
今度はミカがザクとドムに追われているのをキャッチしたシンジは
「ジョージ、行けるか?!」
「オッケー!」
ジョージはロングバレルのライフルを構えたまま、ミカの援護に向かった。
シンジもその後ろに付こうとした直後、
「!?」
足元に殺気の様なものを感じた。
同時に右腕の操縦桿と左足のペダルを踏んで回避行動を取る。それは回避プログラムが反応する前だったが、ストームブリンガーは反応してくれた。
直後、目の前をビームの塊が横切る。
「何だ、今のは??」
シンジは再度足元を索敵すると、猛スピードで接近してくる機体を捉えた。接近と言うより突進だ。ドム系のその機体はバズーカらしき物を構えている。機体の識別をする間も無くまたロックオンアラートが響く。
「くっ」
この間合いだと回避プログラムが反応しないかもしれない。シンジは再度マニュアル操作で回避した。
またビームの塊が目の前を通過する。
目の前まで機体が迫ったため識別ができた。リックドムⅡだ。構えているのはおそらくビームバズーカ。
ジオンがモビルスーツ用ビーム兵器開発の初期段階で開発した大型のビーム兵器だが、ビームの収束率が連邦のビームライフルよりも悪く、接近しなければ相手に致命的なダメージを与えることができない。
バズーカが聞いて呆れる代物ではあるが、相手の間合いに飛び込んで止めを指す戦法を得意とするナイジェルにとっては、むしろ好都合なバズーカと言え、ガンダムと対戦するために装備してきた。
「ガンダム、貴様の相手は俺だ!!」
リックドムはストームブリンガーの目の前を通過すると体勢を反転させ再びストームブリンガーに向けてビームバズーカを構えた。
「させるか!」
シンジもライフルをリックドムに向けた。接近戦なら当然こちらに分がある。マシンガンモードに切り替え、ロックしないまま斉射した。
リックドムは構えを解いて回避したため、左手に持ったままのビームサーベルで切り付けようとしたが、一瞬目の前が光に包まれた。
「何だ??」
ドムの胸部に装備された低出力の拡散ビーム砲によって、瞬きより少しだけ長く目を閉じてしまった。そして目を開けると、モニターにはビームバズーカの銃口が映し出されていた。
【第十五話】一騎打ち に続く
2021年12月4日12時更新予定
【第十三話】出撃前
機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第十三話】出撃前
スペースコロニーは人類が宇宙に住むために作られた人工の大地である。
直径6キロ、全長30キロ程の円筒の内壁に生活空間を作り、地球と同等の環境を作り出している。
宇宙世紀0079年1月10日、ジオン公国軍はコロニー一基を重力爆弾として地球に落下させる「ブリティッシュ作戦」を実行した。
地球連邦軍の拠点「ジャブロー」を狙った作戦だったが、連邦軍の必死の抵抗によりコロニーは大気圏突入時に3つに崩壊してしまい、ジャブローへは落下させることができなかった。
緒戦で優勢だったジオンだが、この失敗により最終的に敗戦したと言える。
ブリティッシュ作戦直後に第二次ブリティッシュ作戦も計画されたが、これも未然に連邦に防がれている。
戦後、5thルナに身を潜めていたジオン残党の一派であるウィリアム・ビッチは第三次ブリティッシュ作戦を極秘に発案、実行に移すための策略を練っていたが、コロニーの状況調査が開始されてしまったため、急きょ実行に移すこととなってしまった。
そのため当初計画していた半分程度の戦力しか集めることができなかった。
巡洋艦や補給艦、輸送艦を含めた総数20隻にモビルスーツは40機ほど。
後のデラーズ・フリートよりも遥かに少ない軍勢だ。
それでもこの作戦は何としても成功させなければならない。そんな思いで地球に向かうコロニーと共に前進していた。
阻止限界点の手前5万キロのあたりに差し掛かったところで、ブリッジの観測係がある影に気付いた。
「こ、これは!?」
明らかに不測の事態が起きたことを表した声にウィリアムが、
「どうしたか?」
と観測係に駆け寄った。
「前方より連邦の艦隊を確認しました。距離5000」
「前から連邦の艦隊だと!?間違いないのか?」
「モニターに出します」
ブリッジの大型モニターに連邦のマゼラン級一隻、サラミス級四隻がはっきり映し出された。
他のブリッジクルーもこの映像を見てざわつき始めた。
「何でこんなに早いんだ?」「まさか連邦がこんなに早く動くなんて」
なんて声も漏れ聞こえてきた。
しかしこれは現実として起こっており、対応しなければならない。
しかもこのルートだと、第二防衛ラインからずれて直接最終防衛ラインに向かう様にも取れる。
ウィリアムは「まずいな」と顎髭を触りながら小声でボソッと言うと、オペレーターに、
「やむを得ん、第二防衛ラインの半数を迎撃に回せ。例えこれが陽動であったとしても第二防衛ラインを死守するんだ」
「は!」
第二防衛ラインは8隻の戦艦と15機のモビルスーツが充られていたが、半数はそこから離れる事になった。
ウィリアムの予想は悪い方に当たってしまった。
ジオンの襲撃を受けた際、サイド5の駐留軍は即座に本部に連絡し、コロニーが移動し始める頃には、地球機動艦隊の一部をコロニー落下軌道に向かわせていた。
そのため、阻止限界点の手前でコロニーを補足する事ができたのだ。
地球軌道艦隊は第二防衛ラインの戦力を分断させるための陽動をとっていた。
地球軌道艦隊からの増援の連絡があった時は、「貴様らでコロニーを奪取しろ!」的な言いっぷりだったが、そんな姿勢であることは分かっていた。
おそらく全てが片付いた頃合いを見計らって本体が到着し、手柄を全て持っていく算段なのだろう。
それでも戦力を分断してくれるだけでこちらとしては大助かりだ。
ジオンの動きをアルバトロス隊のシナプス大佐も確認していた。
「どうやら敵は我々の陽動に乗ったみたいだな。よし、第一戦闘配備!距離5000でペネディソン隊出撃。第二防衛ラインを突破する!」
アルバトロス隊とペネディソン隊の共同部隊は、コロニー落下阻止作戦として段階的に攻め込む作戦を取っていた。
まず、地球軌道艦隊の陽動により第二防衛ラインを手薄にし、ペネディソン隊2小隊で突破、その後入れ替わりでアルバトロス隊が3小隊で第一防衛ラインの戦力を削ぎ、補給を終えたペネディソン隊で第一防衛ラインを突破。その後コロニーに取り付き軌道を変える、と云うのが今回の作戦だ。
第一戦闘配備の合図はもちろんモビルスーツデッキにも響いている。
シンジ達パイロットは自機のコックピットで待機していた。
カマネラのメインハッチが閉じているため外の様子は直視できないが、ブリッジからの映像をコックピットのメインモニターに映して、各艦隊の動きをシンジは確認していた。
程なくしてコロニーの北側で戦闘らしき光が見え始めた。
地球の自転軸に対して、北極側が北、南極側が南と定められている。
上も下も無い宇宙だが、宇宙船やモビルスーツ、民間機など全ては「北が上」になるよう定められている。全ての戦艦やモビルスーツの頭部が同じ方向に向いているのはそのためだ。
もちろん戦闘など動き回る必要がある場合は自由な向きで動けばいいが、列を成す場合などは必ず「北が上」となるよう設定されている。
宇宙だからと全てが自由という訳ではない。
「始まったみたいだね」
ジョージが無線で話しかけてきた。
「ああ、サポートは頼んだぞ、ジョージ」
「任せとけって」
元はアズウェル宙域の捜索が目的だったのが急遽コロニー落下阻止作戦となってしまったが、今回隊は試験用に新型のライフルを携帯していた。
ショートバレルの本体をベースに、砲身を追加してミドルバレル、ロングバレルと、用途に応じて仕様を変更できる試作ライフルだ。
しかもライフルとビームマシンガンに切り替える事もでき、試験部隊ならではの装備と言える。
シンジは二連ビームキャノンからこのライフルに装備を変更していた。装備したのは接近戦を目的としたショートバレルタイプだ。また、二連ビームキャノンを外したことで左腕に装備されているボックスタイプビームサーベルを右腕にも装備した。
オールラウンダーのストームブリンガーだが、今回は接近戦に特化した装備となっている。
この装備は本来の目的であったアズウェル宙域捜索作戦から既に装備していた。
今回新たな作戦になった事で装備の変更を考えたが、やはりこのままで行くことにした。
同じく拠点攻撃になるわけであるが、艦隊戦になることを考えると、早いうちにモビルスーツを沈黙させることで作戦を有利に進めることができるためだ。白兵戦はシンジの得意とするところでもある。
そのサポートに、ロングバレルのライフルを装備したジョージが付いてくれるわけだ。
これでシンジも思い切り戦える。
戦闘の光はそれほど大きな広がりを見せていない。
それは、この戦闘はお互い相手を殲滅するための戦闘ではないためだ。
ジオンはあくまでも防御のための戦闘で、連邦も相手を引き付けるための戦闘としているため、半膠着状態に近い。
しかしジオンは、連邦に背を向けたら当然連邦に攻め込まれてくるため、うかつに動けない。分はジオンの方が悪いと言える。
シンジもコロニーまでの距離を確認していた。
まもなく5000の地点に到達する。
ペネディソン隊の所有するコロンブス級改「ミッドウェイ」の艦内モニターを映すと、モビルスーツの出撃準備が慌ただしく行われていた。
ペネディソン隊指揮官マーク・ファン大佐の号令が、カマネラ全体にも響いた。
「30秒後にA小隊、C小隊出撃!その後2分間牽制の砲撃を行う!」
「アルバトロス隊はこのまま待機、ペネディソン隊と同時に牽制の砲撃を開始する!」
シナプス大佐が続いた。
「アルバトロス隊各機へ」
アレン隊長だ。カメラは無く音声のみの通信だ。
「今回の作戦は、隊が結成されて最初の大規模な戦闘となるだろう。ジオンも全力で掛かってくるはずだ。また時間的にも第2波は無い。必ずこの戦闘で決めるんだ。危険な任務になることは間違いないが、必ず全員生還するんだ。隊全員で勝利を分かち合おう。以上だ」
モニターにはペネディソン隊の出撃の様子が映し出されていた。
「仲間を死なせなくないなら、まずは隊長のあんたが率先して示さなくちゃな」
シンジは嫌味のつもりは無かったが、ぼそっと口に出した。無線は繋がっていないから誰にも聞こえていないはずだ。
「シンジ少尉」
アレンからの通信にシンジはドキッとした。
「は!」
シンジは冷静を装って返事をした。
「君の機体はガンダムだが、接近戦となると損傷リスクも高くなる、気を付けるんだぞ」
「はい、心得ております」
どうやらさっきの独り言が聞こえたらの通信ではなかったようだ。
シンジは返事と同時に軽く舌を出した。
【第十四話】激突 に続く
2021年11月27日12時更新予定
【第十二話】コロニー強奪
【第十一話】フェイク
機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第十一話】フェイク
連邦軍は戦前から戦時中にかけて、小規模の衛星を各ラグランジュ点や月軌道上に配置して、拠点として運用していた。
だが、戦後連邦の管理体制が大幅に変わったことから、衛星としての拠点をルナツーとコンペイトウ(旧ソロモン)に集約して、小規模な衛星は基地としての機能を廃棄した。
先日シンジが立ち寄った衛星「アーク」もその一つだ。
アークのように衛星としての機能を一部残したままにしてあるのもあれば、完全に隕石に戻したものもある。
これらの衛星は基本的には連邦の目に届く位置に配置されているのだが、中にはアステロイドに埋もれているのも幾つか存在する。
今回のシンジの一件があり、それらの衛星の状態を今一度確認することになった。
もしかしたらジオン残党兵により摂取されているものあるかもしれない。
ルナツーの司令官ミック・クルーガは、コンペイトウとの連携によりそれらの衛星の調査を行った。
調査の結果、連邦が認知していない衛星は三つある事が分かった。
そのうちの一つ「アズウェル」が今回の調査対象となった。
月軌道上のL5方面にあり、ルナツーとコンペイトウのちょうど中間に位置する衛星で、三つのうちで最も大きい衛星となっている。
アステロイドに覆われたアズウェルは、ミノフスキー濃度が高いため、監視衛星からの画像も届かない。
しかも最近このエリアで所属不明機の目撃情報もあった。
非常に危険度が高い捜索になることが予想されるため、今回の捜索はアルバトロス隊だけでなく、コンペイトウの防衛部隊「第七機動連隊ベネディソン隊」との合同作戦になることが決まった。
旗艦ホーネットと随伴艦ユイリンでと共にアズウェルのある宙域へ向かう。
今回はミック・ジャック少尉がルナツーの護衛として残っている。
シンジは、ミカ・ヒューマン中尉を小隊長としてジョージとC小隊を組んでいる。
「こんなにミノフスキー粒子が濃いのは異常だな」
ホーネットのブリッジで艦長のシナプス大佐が両腕を組んで、アレン隊長に話しかけた。
「そうですねぇ。それにこの広さですから、ペネディソン隊と合わせて六小隊で編成を組んで捜索にあたります。」
「アズウェル自体はすぐに見つけることができるだろうが、そこからだな」
「はい。もし発見した場合はその場所をトレースできるようにポイントを置いてすぐ離脱します。帰還後再度突入という形が良いと思っています。作戦参謀もその意見みたいで、この後のブリーフィングで決定すると思われます。」
「私もその意見に賛成だ。詳しいことはブリーフィングでな。」
「は!自分は先に行っています。」
アレンは敬礼をしてホーネットのブリッジから出て行った。
時を同じくして、ジオン残党にも大きな動きがあった。
「カマネラのモビルスーツデッキで待機します。」
ブリーフィングが終了し、アレン隊長がそう言うとやシンジ他アルバトロス隊の全員がシナプス艦長に敬礼し、ブリーフィングルームを出て行った。
ホーネットのモビルスーツモビルデッキに艦間移動用のランチ(小型艇)が待機している。全員ランチに乗り、カマネラに戻った。
ランチの中でジョージが
「でもさぁ、自分ちの周りをミノフスキー粒子で固めるなんて、返って怪しまれるんじゃ無いですかねぇ」
と素朴な疑問を口にした。
「それは作戦参謀も言っていたんだ。もちろんこの濃いミノフスキー粒子だ、目視での調査しか出来ないから、我々アルバトロス隊が出向くんだ。さっきのブリーフィングでも言っていたが、我々の目的はあくまでも調査だ。要塞攻略ではない事を肝に銘じるんだ」
アレン隊長は改めてこの作戦の真意を説いた。
カマネラに到着したシンジ達を乗せたランチは、ハッチが開くとパイロット達はそのまま自機の方に流れて行った。
「頑張ろうな、シンジ!」
後ろからポンと肩に手を置いてジョージが声をかけた。
「ああ!」
とシンジは答えて、ストームブリンガーのコックピットに流れた。
アズウェル周辺のアステロイドを補足したホーネット艦隊はモビルスーツの出撃準備に入る。
シンジのストームブリンガーとジョージのジムコマンドーが射出される。
続いてミカ・ヒューマン中尉のジム・スナイパーⅡが射出された。
アステロイド内に入ると、そこはまさに霧の中だ。レーダーは全く反応しない。目視といっても光学ズームしてもぼやけてしまう。
シンジでもここまで酷いミノフスキー濃度は初めてだ。いつも以上に目と勘を頼りにしなければならない。
このアステロイド群の中でも一番大きい衛星がアズウェルのはずなのだが、目視では全く判断できない。
これは思った以上に骨が折れそうだ。GPSも効かないため、自分の位置情報を記録しながら進む。同じところに二度来ないようにするためだ。これは山道で迷子にならない手法と同じである。
とにかく大小さまざまな石ころを避けながら、予定のレンジ内を動き回っていると、ふとジョージの「自分たちの周りをミノフスキー粒子で囲むなんて…」という言葉を思い出す。
実はシンジもそれについては強く疑問に思っていた。ブリーフィングでも同じような話題になったが、大した問題にならなかった。
こんなに濃いミノフスキー粒子だと、外部から侵入者がいても分からない。実際我々がこの中で動き回っていても、察知できていない筈だ。
もしアズウェルで待ち構えていたとしても、アズウェルから我々を捕捉することは不可能だ。そうなるとアズウェルはジオンに摂取されてはいない。
シンジはミカの機体に接近し、接触回線を開いた。
「ミカ中尉、やはりこの状況でジオンがアズウェルで待ち構えている可能性は極めて低いです。この作戦、中止すべきだと思います。」
シンジは居ても立っても居られなかった。何も確証が無いけど確信がある。今自分たちは間違った方向に進んでいる。真実はここには無い、別の場所に真実が眠っている。その真実が間もなく目覚めようとしているとシンジの直感が告げている。
このシンジの直感が、未曽有の惨事を防ぐことになった。
【第十二話】コロニー強奪 へ続く
2021年11月13日12時配信予定