機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第十八話】クリスマスイブ
ルナツーの街はクリスマス一色だ。
クリスマスソングも街全体に響いている。
街路樹がイルミネーションやクリスマスツリーに彩られたメインストリートをシンジとサラは腕を組んで歩いていた。
「ルナツーのクリスマスは初めてだけど、意外と盛大なのね」
「狭い分無理やり一つにまとめたって感じだよね」
「そんな感じね」
サラはシンジと会ってからは終始笑顔だ。
「それにしても寒いわね」
「ルナツーのクリスマスは日本のクリスマスを真似てるらしいよ。日本のクリスマスって妙に寒いだろ?」
「そんなんだ?だからどこか懐かしい感じがあるのね。この寒さは日本の寒さってことなんだね」
「そういうこと」
気象のコントロールは基本的にはAIによる自動制御だが、クリスマスなどイベント時には特別に人の手により彩られる。
また、日本に似せたルナツーのクリスマスは知る人ぞ知るスポットとして訪れるカップルも少なくない。
寒いクリスマスがカップルの距離を更に近づける効果ももたらしていた。
二人の目的地はストリートの先にあるレストラン。クリスマスディナーを予約してある。20時に予約してあるのだが、そこまでには数多くの誘惑が待ち受けている。
それらを突破し時間までに目的地に辿り着かなければならない。
タイムキーパーのシンジの戦いが始まった。
20時
数々の誘惑を突破し、時間通り目的地のレストラン「DUO」に着いた。
デュオと言ってもカップルしか利用できない訳ではなく、一人でも3人以上のグループでも利用可能だ。
シンジとサラはエレベータで5階に上がると、ウェイターに窓際の席に案内された。
窓と言ってもガラスではなくモニターだ。高層階からの街の夜景が映し出されている。
これもクリスマス限定の特別仕様みたいだ。
「メリークリスマス!」
シャンパンが注がれた細長いシャンパングラズの先端を合わせた。
「美味しい」
サラはシャンパンのおいしさとアルコールで頬を少し赤めた。
「こういう時ぐらいはね。お店のおススメのシャンパンとメニューを用意してもらったよ」
高給取りの割に普段ほとんど出費の無いシンジは、今日ばかりはお金を一切気にしない段取りを踏んでいた。
おかげで高級シャンパンに、一般市民は手に入れづらい天然食材をふんだんに使ったメニューを満喫することができた。
ただシンジは残念ながら下戸だ。反対にサラはザルであり、シャンパンのほとんどはサラが飲み干してしまった。
その後も肉や魚のコースに、酒が入ったサラは笑いが絶えなかった。
メインディッシュも終わり一息つこうかというところでシンジが口を開いた。
「サラ、話さなきゃいけないことがあるんだ」
「何?改まって」
シンジの表情にサラも合わせた。
「今日辞令が降りて、年明けからジャブローの試験部隊に配属する事が決まったんだ。しばらくの間離れ離れになっちゃう」
変な語尾になってしまったため、言い直した。
「ちょっとの間離れ離れになるけど、また戻ってこれるから」
咄嗟に嘘をついてしまった。
別れ話を繰り出している訳ではないのに、やはり暫く会えなくなるから我慢してくれとは言いづらい。
この後何を話せば良いか分からなくなったシンジを見かねて、
「知ってたよ」
サラはニコッとして反応した。
シンジは驚いた表情を隠せなかった。
「何で知ってるの?」
「診察室で誰かが普通に話してたよ。こんな狭いルナツーだもん、噂なんてすぐに広がるでしょ?」
「そうだったんだ…」
「うん。ジャブローのお偉いさんからのお誘いなんでしょ?シンジのパイロットとしての腕が認められたんだから、全力で頑張ってこなきゃね、中尉さん」
「そんな事まで知ってたのか?だったら最初に話せば良かった」
「私はルナツーでお留守番しながら、シンジの活躍を祈ってるね」
良かったのか悪かったのかよく分からない空気が二人の間を流れたが、その空気の流れを変えるべく、
「実はもう一つ話しがあるんだ」
「何?」
シンジはおもむろにポケットから箱のようなものを取り出した。
サラの方に向けて蓋を開くと、そこには指輪が入っていた。
「こういうのは、柄じゃないことは分かってるよ」
シンジは立ち上がると、サラの左側にひざまづいて、左手の薬指にスッとはめた。
「こ、これって?」
今度はサラが驚きの表情を隠せなかった。
「今すぐ結婚してくれとか、そういうことじゃないよ。でも…」
シンジはサラの左手を両手で握った。
「俺は必ずサラの元に帰ってくるから、それまで待ってて欲しいんだ。この指輪に誓って、必ず帰ってくる」
シンジの言葉は力強かった。
サラは緊張の糸がスッと解けて、そのままシンジに抱きついて大粒の涙を流した。
シンジの異動の話しを耳にした時は、これがシンジと過ごす最初で最後のクリスマスになるかもしれないと覚悟していたからだ。
「絶対に約束守ってよ」
涙声のサラ。
「ああ、必ず守るよ」
ここがレストランだと言うことを忘れて、しばらく抱き合ってた二人。
周囲もカップルばかりだったため、二人を見て啜り泣く声も聞こえていた。
サラが落ち着きを取り戻し、椅子に座ったとことで、ウェイターが二人のテーブルにやってきて、訪ねた。
「食後のデザートと飲み物をお待ちしてよろしいでしょうか?」
「はい!」
二人は元気よくハモった。ウェイターもどことなく嬉しそうだ。
採れたてのフルーツが一口サイズに切られたデザートと、シンジはコーヒー、サラはレモンティーに満足して店を後にした。
22時30分
二人はシンジの住宅エリアの住居に戻ってきた。
5階建てマンションの、シンジの部屋がある3階にエレベータで昇ってきた。
指紋認証でドアを開けると、クリスマスをイメージした電飾が電灯と同時に光る。
「わぁ、何これ?」
サラは笑顔がはち切れそうだ。
「すごいだろ?」
「シンジがやったの?」
「そうだよ、一人で居る時にね」
壁から天井にかけて夜景をイメージした装飾に、ただただ嬉しく、ずっとシンジの腕を組んだまま離さなかった。
「ねね、飲み直そ」
「まだ飲むの??」
「これ見たら酔いが一気に醒めちゃった」
どういう体の構造してるんだ...、これが大酒飲みか…
サラはシンジの唇に軽くキスをして、キッチンに向かった。
シンジも上着を上着掛けにかけると、ソファーに座りネクタイを緩めてワイシャツのボタンの上二つを外した。
暖房を付けっ放しにしていたため、むしろ暑いくらいだ。
「サラ、俺は冷たい水かお茶でいいよ!」
「えー」
キッチンからサラの不満そうな返事が聞こえた。
シンジはテーブルの上にあるモニターを付けるセンサーに手をかざそうとしたが、今夜はサラと過ごす時間を大切にしたいからモニターを付けるのをやめて、その隣にあるオーディオを付けるセンサーに手をかざした。
今夜はリクエストチャンネルならそれなりにムーディーな曲が流れるだろう。
手をかざしてオーディオが点灯したのを確認すると、手を左右に振ってチャンネルを選んだ。センサーにはチャンネルも表示されている。
リクエストチャンネルになると今度は手を上に振ってボリュームを上げる。
聞こえてくる曲は思った通りクリスマスソングだ。
ボリュームは大きくなく小さくなく、耳に入ってくる程度のボリュームに設定する。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
サラがお水のボトルを持ってきてくれた。
よく冷えている。
サラは酎ハイの缶を持っていた。
シンジの左横に座ると、
「乾杯」
サラが缶を差し出した。
「乾杯」
水のボトルを合わせると、なんとも鈍い音がした。
シンジは部屋の暑さと喉の渇きと若干の気分の悪さから、半分くらいを一気に飲み干した。
サラは一口一口飲んでいる。
いつの間にか上着を脱いでいて、 シンジと同じように胸元のボタンを外していて、下着が見えそうなくらい胸元が露出していた。
しかしサラのボリュームでは谷間は形成されない。
それでも意識が少し不安定なシンジはその胸元を凝視してしまう。
「ちょっと、どこ見てるの!?」
嬉しいのか怒っているのかよく分からない口調で両手で胸を隠すと、
「どうせこの後裸になるだろ」
「馬鹿!」
思い切りシンジの頭を叩いた。
たまに無神経な発言をするシンジに対してサラは容赦はしない。
「痛てーな、何するんだよ!?」
本当に痛かったため、叩かれた部分を手で押さえて少し顔を歪めた。
「無神経なこと言ったからだよ」
サラは少しだけそっぽ向いて、酎ハイを一気に飲み始めた。
シンジも頭を叩かれたおかげで頭痛と気分の悪さが悪化したため、水を一気に飲み干した。
ふぅー
大きくため息をついてボトルをテーブルに置くと、サラも缶をテーブルに置いた。
「サラ」
「何よ?」
振り向いたサラはまだムッとした表情をしていたが、それを覆い被せるように抱きしめた。
「大好きだよ」
「私も」
サラの表情は180度変わった。そしてシンジの背中に両腕を回した。
そのままサラをソファーの上に押し倒して舌を絡めた。
「ん…ぁん」
シンジの体温がダイレクトに伝わってくる。
「ここでするの?」
「たまにはいいだろ?」
「まだシャワーも浴びてないよ」
「たまにはいいだろ?」
「今日は朝まで頑張れるの?」
約束だった。
「俺を誰だと思ってるんだ?」
「期待してるよ、中尉さん」
【第十九話】地球へ に続く。
2021年1月1日12時更新予定
【注記】この物語はフィクションであり非公式です。また、公式には出てこない機体も登場したり、一部独自の設定があるなど、パラレルワールド的な物語である事をご了承ください。